ピーター・フォーク自伝 「刑事コロンボ」の素顔 ― 2011/09/03 22:40
「刑事コロンボ」役でおなじみの、役者さんの自伝
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ピーターフォークさんの訃報を聞いて調べてみたら、自伝が出版されていた。図書館で見つけたので、借りて読んでみた。
役者稼業に入るころから始まって、その後の出演作や共演者の印象を、ほぼ時系列にまとめている。
エピソードは短めの文章にまとまっていて読みやすい。「手間をかけずにさらりと読めて、魅力的で、意外で、楽しい話が好きだから」と、ご自身でも書かれている、その通りの作りだ。ちょっと軽めの読み物なのに、下手に小難しい文章より、じっくり読ませてしまうのは、さすが役者さん。話し方(書き方)がうまいのだ。
何かを切実に訴えよう、というような気張った所はほとんどなく、あるがままの気軽さ、優しさでもって、ふっと笑わせながら、でも何か、小さいけど、大切なものが、後味に残る。そんな感じ。
まるで、メイクを落とした彼と、おしゃべりしているようだった。
ちょっと話がずれるのだが、役者さんは不憫な商売だなあ、と思う。とかくプライベートを暴かれがちで、人柄や普段の行いまで、細かく云々されがちだ。
しかし本来、それは彼の仕事には、何の関係もない。
「たいへんにいい仕事をしてくれて感謝しているが、あなたの人柄はいまいちだから、料金は払わない。」
そんなことを言われたら、誰だって怒ると思うが、我々は普段、彼らにはそんなことを、普通にしているというわけだ。
絵描きさんや音楽家などの芸術家や、小説家などの文筆業も同類だろうか。
変な風習である。
素で仕事して済むんなら苦労はないだろうし、人となりから伝えないとわかってもらえないなんて、いい仕事とは言えないだろうに。
戻して。
本書には、巻末に出演作品リストもついている。未見の、面白そうな作品が見つかるかもしれない。
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ピーター・フォーク自伝 「刑事コロンボ」の素顔
(小池朝雄さんの声で)
ああそうだ。もうひとつだけ。
さっきの、「人柄と仕事は関係ない」って話ですがね。
それと同んなじことなんですが、あなたが目下の人を怒る時ね。
例えですがね、学校のテストが測るのは学力だし、上司が見るべきなのは仕事なんですよ。決して、彼の人物を見ているわけじゃない。
だからね、彼のデキが悪くたって、彼の「人物」を、叱っちゃいけません。テストや仕事を叱るのは、しょうがないですがね。
大体ね、人さまの人物を叱れるほど、自分が偉いって思っているのが、そもそも間違いなんです。偉いのはね、あなたじゃなくって、あなたの座っている、その大きいイスの方なんですから。
あ、いや、そんだけなんです。失礼しました。
そいじゃ、また。
「 love, speed & loss 」 ― 2011/09/04 07:51
70年代の世界GPで活躍したキム・ニューコムを中心に、当時のGPシーンを描いたドキュメンタリー
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キム・ニューコム
船外エンジンのケーニッヒ、2サイクル水平対向4気筒を積んだ自作のバイクで、MVなど当時のワークスを相手に奮闘していた人物だ。バイクの熟成が進んできて、結果が安定し始めた矢先に、レース中に事故死してしまう。
収められているのは、70年代の当時に撮影された8ミリなどの映像と、最近撮られた当時の関係者へのインタビューだ。
主な語り部は、彼の奥さん。二人のなれそめから、GP転戦の日々、事故死、そして、その後。お話は、彼女の語りを軸に、淡々と続く。その悲しみの深さは、 以前取り上げた「未亡人は言った・・」 の辺りより、よほど辛辣に思える。
事故死したライダーの話ということもあるのだが、当時の映像、ちょっとピントがボヤけてて、でも何というか、皮が薄くて、ナマの肉の体温が、そのまま透けて見えるような映像は、何故か無性に悲しくて、生傷の痛みまで伝えてくるような、逃れがたい厳しさがある。
彼は、ただの「ライダー」ではなかった。「エンジニア」でもあり、「メカニック」でもあった。バイクを作り上げ、日々の整備を行い、性能を上げつつ、トラブルを潰して熟成させる。転戦のために運転手もし、サーキットに着けば自分で走る。全く、すべてを一人でこなしていた。
当時、MVや日本車のワークス勢は、豊富な資金力でもって、プライベートライダーを、サーキットの視界の脇に追いやりつつあった。彼も、その目立たない一人だったのだ。 少なくとも、初めのうちは。
彼のバイクを今の目で見ると、タイヤが未熟だった当時の「低くていい感じ」そのものだ。万人受けしそうな安心感はないものの、頂上まであと一歩、というレッドゾーン寸前の、勢いと危うさ、その両刃の稜線を、体現していたようにも見える。
きっと、「独特」ならではの苦労もあったろう。(「単独」で対処しないといけない。)その神髄は、彼にしか分からないし、だからもう、誰にも分からない。
そして、やはり、当時のGPの空気である。
「死にたくないなら辞めればいい。」
違うさ。安全対策なんかにカネをかけて、自分の取り分が減るのがイヤなだけだ。大切なのは、末端のライダーがどうこうなんかではなく、運営側の実入りなのだ。単に。
そんな時代。
雨のサーキット。
彼は、もういない。
古びたトロフィー。
悲しい風景である。
それは多分、人が主役だった時代が失われたから、なんかではなくて、
そんな時代なんか、一回もなかったから、なのだろう。
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余談だが、彼は、以前取り上げた ジョン・ブリッテン や、 バート・マンロー と同じ、ニュージーランド人だ。
「全てを自力でやる」という、驚嘆すべき意思と能力でも共通する。
お国柄、なのだろうか?。
「組織の思考が止まるとき」 ― 2011/09/10 08:55
コンプライアンスを主題に、組織(主に検察)の機能不全について論じる
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図書館で見かけて、ふと借りて読んだ。
言いたいことはわかる。
ルールには目的がある。性能とか、品質、安全とか、そういったものなのだが、実際の現場では、手順とか、担当とか、もっと手前の、狭い範囲で語られてしまうことが多い。「ルール違反じゃないか、手順を守ったのか?」といった具合に。
品質の為に手順があるのに、品質がどうだったかは飛ばされて、手順を守ったかどうかだけが問題にされる。
品質の為に仕事をするのではなく、ただ手順を守ることが大切になる。上司も、そう評価する。
製品の品質は下がる一方だが、誰も気にしなくなる。もともと、人手が足りていたわけではなく、当事者は皆、仕事に追われる立場だから余計である。
そんなんだから、余分な仕事はしない方がおトクである。なるべく減らそうとする。問題が出たら、誰か他人、例えば隣の部署なんかに押しつけたりする。
そうやって皆、自分のタコつぼに入って出なくなる。
(他人の不幸は蜜の味、という「いじめ根性」も台頭してくる。)
そうなると、もう、組織は機能しない。
当然、コンプライアンスも。
話は簡単なのだ。
組織は、ブレーキ(締め付け)ではなく、アクセル(鼓舞)で制御した方がよいこともある。
落とし穴をふさぎ、不測の事態を予測し、真新しさ、斬新さを認め、評価し、生かしてやる軸があればいい。
目標(品質とか安全とか)がしっかりしていて、そこへ向かう力が強ければ、組織は自然に結束するものなのだ。
その軸は、しかし昨今は、劣化する一方のようだが。
「できなくなって行く」風景は、どう見えるものなのか。
著者は、コンプライアンスというメスでもって、医療や報道メディアなど、いくつかの角度から切り込んでみせている。しかし、著者が主に描きたいのは、古巣でもある検察だろう。
検察の目的とは?。
「正義」 (←笑うとこ)
そこへ、筆者の粘着質な筆致が、からみつく。
しかしだ。
普段から「機能しなくなっている組織」に付き合わされている身からすると、「いつもの風景」というだけのことで、それをネチネチ描き出されても、あまり新鮮味は無いし、そのうち飽きてしまう。
そんなわけで、途中からナナメ読みになってしまったのだが。
そんなんではなくて、普段、官僚は何で堕落するんだろう、などと不思議に思っている(幸せな)方々なら、真新しい知見を得られるかもしれない。
この手の本の通例として、結論(解決法)の提言が弱々しいのも気になった。
経験知?。(苦笑)
確か、日本がうまくいっていた頃、昭和の頃?はそんな仕組みが機能していたかもしれない。
しかし、それが今はなくなったということにも、それなりの意味や経緯があったのだ。
確かに、昭和の方が良かったことはあるかもしれないが、例え昭和に戻れたとしても、それで解決、というわけではないのだが。
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組織の思考が止まるとき ‐「法令遵守」から「ルールの創造」へ
「PROFICIENT MOTORCYCLING」 ― 2011/09/17 05:56
公道でのバイクの乗り方、楽しみ方を論ずる
(★★★★☆)
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「バイクの乗り方」なんて本を、お気軽に当たってみようとすると、 以前取り上げたコレ のような、スポーツライドに特化した「限界間際の操り方」(しかも的外れな)か、でなければ、教習所チックな「ニーグリップと法令順守」にいきなり落っこちてしまう例が多いのではなかろうか。
まあ、そんな環境なので、日々バイクを楽しんでいる公道ライダーというのは、自己流と経験論でもって、自力でキャリアを延々と築いてきたクチがほとんどだろう。
かくいう私も、公道バイクのサイトを書いてはいるのだが、主に公道で使いやすいハードを云々しているだけで、乗り方についてはほとんど触れていない。こう乗った方がいい、のような方法論も多少は持ってはいるのだが、乗り方なんて人それぞれだと思うし、唯一のお手本に収斂する類のものでもないとも思うので、描きようがないのだ。あえて描こうとすれば、瑣末ばかりになってしまって、書くにも読むにも、うっとおしくなりそうに思う。実際、世に在るライテク本の類を見ても、本質を射抜いたような説得力を持つものは少なくて、妙に偏った印象である例が多いようだ。
本書は、そんな公道ライドのあれこれを、丁寧にまとめた、貴重な例だ。
とはいえ、白状してしまえば、私も一字一句までは読んでいない。半分くらい?、拾い読みした程度だ。
何せ量がある。A4サイズで300ページ近い(挿図も多いのだが)。しかも英語である。ライディングを表す口語英語(テクニカルターム?)には、なじみのないものも多い。思ったよりは重労働だ。
しかし、著者の記述がこの量になったのには、それなりに意味があるように思える。
目次と内容を、ざっくりとまとめてみる。
Chapter1:Risk!
公道ライダーが置かれている状況について、建て前ではない実際を描いている。データが豊富で説得力がある。
Chapter2:Motorcycle Dynamics
バイクというのは、どう動くものなのかしらね、ということを、ひどく実践的に説明している。特にブレーキングが詳細。
Chapter3:Cornering Tactics
主に、コーナリングの際のマージンの取り方について論じている。スロットルワークとトラクションなんていうのではなく、走行ライン取り方や、動作の「テンポ」について説明している。
Chapter4:Urban Traffic Survival
市街地走行の際の実際を説明している。さまざまなレベル/質のドライバーに囲まれていて、もし当たれば一方的にやられる立場という、この「よろしくない環境」を、どうコントロールするかについて論じている。
Chapter5:Booby Traps
砂、雨、路面のギャップ・・・公道ライダーの足元は、いつすくわれるかわからない。その実際と対処について論じている。
さすがUSA、「鹿への対処法」まであるが。日本で役立つのは・・・北海道くらいかな。
Chapter6:Special Situation
出先の雨や、工事中でダート走行を強いられる場合といった、通常とは異なる状況への備えを論じている。
さすがUSA、砂漠の走り方まである。日本では・・・役に立たないかな。(笑)
Chapter7:Sharing the Ride
マスツーリングやタンデムのあれこれなど。サイドカーやトライクなども網羅している。(USではバイクの範疇に入るらしい。)
いくら正こくを射ていても、ダラダラ説明では飽きてしまう。本書はその辺にも配慮があって、「これができたら、こんなにいい」、そんな「エサ」・・・ま良く言えば「目的感」まで、盛り込まれている。
例えば、いわく
「公道では、クレバーになれ。」
うん。なんかカッコイイではないか。(笑)
データが豊富なのも特徴だ。
例えば、「ヘルメットの部分別・受傷率の分布」
ドイツの統計データらしいが。アゴ部の被災率が意外と大きい。
やっぱ、フルヘル被っとこうかな・・・と思うでしょ?。
一方で、車種に関する良しあしは、全くと言っていいほど触れられていない。本書の性格上、車種の選択は読者の自由であり、ただ、それらをクレバーに扱うのはどうしたらいいかを、ケース別に論じるというスタンスを貫いている。
一応、グッチにも乗ってくれているのだが、
ライディングウエアを論じる節で「一例」として挙げているだけで、バイクを取り上げているわけではない。
著者はどんな人かと言うと、もう見るからに、うるさ型のオッサンだ。(笑)
とはいえ、ご高説ご開陳型の、単なる経験論では全くない。著者の経験は、ただの要素の一つに過ぎない。実例や統計データを加え、視野を広く、客観的に考えようとする、著者の姿勢には揺るぎがない。初版は古い本のようだが、書き換えては再販を繰り返しているらしく、見た目も内容も古びていない。こうした諸々の重なりが醸し出す、説得力には厚みがある。思わずうなずく内容も多いし、参考になる点も少なくない。
わが身を振り返ってみても、キャリアが伸びるに従って、慢心が頭をもたげる場面が増えるのは否めない。今まで大丈夫だったんだし、知識経験も十分なはずだ、のような思考停止に陥りがちだ。それを反省し、日々考え、備えることは常に必要、しかし、たとえそれができたとしても、「万が一」の確率が減るだけ、という厳しい世界でもある。そして、そうやって日々備えた上で、自力で目的地に向かうプロセスの全てが、バイクの楽しみなのだ、と改めて思い出させてくれる。
同種の書物としては、日本ではなかなかお目にかかれない、まともな本だと思う。
ただ、USAドメスティックな内容なので、日本のライダーの皆さんには読みこなしが必要だろう。交通文化が異なるので、例えば、右側走行なので右左折の状況が逆だったり、路上でのマナーや、ドライバーの意図の解釈といった、ニュアンスの細部も違ってくる。そのままポンづけで流用できるものばかりではないので、噛み砕いて応用する力は必要だろう。
出版業界の皆様には、 以前取り上げたこの辺り より、本書のように、地味だが真面目な本を翻訳して、みっちり売ってほしいと思うのだが。
意外とロングテールになったり・・・しないかな。(笑)
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円高の今がチャンスですよ、お客さん!
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「人は上司になるとバカになる」 ― 2011/09/19 05:53
イヤな上司をタイプ分けし、効果的な対処法を述べる
(★★☆☆☆)
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ぱっと見、帯の文句や目次からは、「上司との関係に困っている部下が読んで、対処法を探る本」に見える。
しかし、本当に困っている部下の方には、本書はお薦めしない。
著者の挙げる対処法は、一見、具体的で多彩だ。しかし、論旨としては「上司も人間、理解してあげなさい」の一点張りで、対処というより「あきらめ方」の指南と言える。そこまで深く悟れていれば、最初から迷わない。実質、何の解決にもなっていないので、かえってストレスになることも多いだろう。
「上司が悪くなるメカニズムの解明」ともうたっているが、そこまで論理的でもない。「類例化した経験談」のレベルなので、冷静に分析したい向きの役にも立たないだろう。
本書は、そういう読まれ方をする本ではない。
実は、著者も書いているのだが、この本を読むのは、上司の方だ。
上司が読んで、自分を振り返って反省する本なのである。
そう思って読むと、すっきりする。
各章末にわずかながら挙げられている「良い上司の実例」も、ほっこりと読める。
しかしだ。
この表題では、反省して欲しい上司は、手に取らないだろう。よろしくない上司は、自分はバカではないと思っているに違いないのだ。
内容はともかく、企画としては間違っている。
部下と上司の間の見えない界面を見つめる著者の視点は、湿り気も温度も中庸で、良くも悪くも日本的だ。馴染みやすさを感じる向きも多そうで、その力加減だけは、参考になった。
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