「PROFICIENT MOTORCYCLING」2011/09/17 05:56



公道でのバイクの乗り方、楽しみ方を論ずる
(★★★★☆)

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「バイクの乗り方」なんて本を、お気軽に当たってみようとすると、 以前取り上げたコレ のような、スポーツライドに特化した「限界間際の操り方」(しかも的外れな)か、でなければ、教習所チックな「ニーグリップと法令順守」にいきなり落っこちてしまう例が多いのではなかろうか。

まあ、そんな環境なので、日々バイクを楽しんでいる公道ライダーというのは、自己流と経験論でもって、自力でキャリアを延々と築いてきたクチがほとんどだろう。

かくいう私も、公道バイクのサイトを書いてはいるのだが、主に公道で使いやすいハードを云々しているだけで、乗り方についてはほとんど触れていない。こう乗った方がいい、のような方法論も多少は持ってはいるのだが、乗り方なんて人それぞれだと思うし、唯一のお手本に収斂する類のものでもないとも思うので、描きようがないのだ。あえて描こうとすれば、瑣末ばかりになってしまって、書くにも読むにも、うっとおしくなりそうに思う。実際、世に在るライテク本の類を見ても、本質を射抜いたような説得力を持つものは少なくて、妙に偏った印象である例が多いようだ。

本書は、そんな公道ライドのあれこれを、丁寧にまとめた、貴重な例だ。

とはいえ、白状してしまえば、私も一字一句までは読んでいない。半分くらい?、拾い読みした程度だ。
何せ量がある。A4サイズで300ページ近い(挿図も多いのだが)。しかも英語である。ライディングを表す口語英語(テクニカルターム?)には、なじみのないものも多い。思ったよりは重労働だ。
しかし、著者の記述がこの量になったのには、それなりに意味があるように思える。

目次と内容を、ざっくりとまとめてみる。

Chapter1:Risk!
公道ライダーが置かれている状況について、建て前ではない実際を描いている。データが豊富で説得力がある。

Chapter2:Motorcycle Dynamics
バイクというのは、どう動くものなのかしらね、ということを、ひどく実践的に説明している。特にブレーキングが詳細。

Chapter3:Cornering Tactics
主に、コーナリングの際のマージンの取り方について論じている。スロットルワークとトラクションなんていうのではなく、走行ライン取り方や、動作の「テンポ」について説明している。

Chapter4:Urban Traffic Survival
市街地走行の際の実際を説明している。さまざまなレベル/質のドライバーに囲まれていて、もし当たれば一方的にやられる立場という、この「よろしくない環境」を、どうコントロールするかについて論じている。

Chapter5:Booby Traps
砂、雨、路面のギャップ・・・公道ライダーの足元は、いつすくわれるかわからない。その実際と対処について論じている。
さすがUSA、「鹿への対処法」まであるが。日本で役立つのは・・・北海道くらいかな。

Chapter6:Special Situation
出先の雨や、工事中でダート走行を強いられる場合といった、通常とは異なる状況への備えを論じている。
さすがUSA、砂漠の走り方まである。日本では・・・役に立たないかな。(笑)

Chapter7:Sharing the Ride
マスツーリングやタンデムのあれこれなど。サイドカーやトライクなども網羅している。(USではバイクの範疇に入るらしい。)


いくら正こくを射ていても、ダラダラ説明では飽きてしまう。本書はその辺にも配慮があって、「これができたら、こんなにいい」、そんな「エサ」・・・ま良く言えば「目的感」まで、盛り込まれている。

例えば、いわく
  「公道では、クレバーになれ。」
うん。なんかカッコイイではないか。(笑)

データが豊富なのも特徴だ。
例えば、「ヘルメットの部分別・受傷率の分布」
ドイツの統計データらしいが。アゴ部の被災率が意外と大きい。
やっぱ、フルヘル被っとこうかな・・・と思うでしょ?。

一方で、車種に関する良しあしは、全くと言っていいほど触れられていない。本書の性格上、車種の選択は読者の自由であり、ただ、それらをクレバーに扱うのはどうしたらいいかを、ケース別に論じるというスタンスを貫いている。

一応、グッチにも乗ってくれているのだが、
ライディングウエアを論じる節で「一例」として挙げているだけで、バイクを取り上げているわけではない。

著者はどんな人かと言うと、もう見るからに、うるさ型のオッサンだ。(笑)
とはいえ、ご高説ご開陳型の、単なる経験論では全くない。著者の経験は、ただの要素の一つに過ぎない。実例や統計データを加え、視野を広く、客観的に考えようとする、著者の姿勢には揺るぎがない。初版は古い本のようだが、書き換えては再販を繰り返しているらしく、見た目も内容も古びていない。こうした諸々の重なりが醸し出す、説得力には厚みがある。思わずうなずく内容も多いし、参考になる点も少なくない。

わが身を振り返ってみても、キャリアが伸びるに従って、慢心が頭をもたげる場面が増えるのは否めない。今まで大丈夫だったんだし、知識経験も十分なはずだ、のような思考停止に陥りがちだ。それを反省し、日々考え、備えることは常に必要、しかし、たとえそれができたとしても、「万が一」の確率が減るだけ、という厳しい世界でもある。そして、そうやって日々備えた上で、自力で目的地に向かうプロセスの全てが、バイクの楽しみなのだ、と改めて思い出させてくれる。

同種の書物としては、日本ではなかなかお目にかかれない、まともな本だと思う。

ただ、USAドメスティックな内容なので、日本のライダーの皆さんには読みこなしが必要だろう。交通文化が異なるので、例えば、右側走行なので右左折の状況が逆だったり、路上でのマナーや、ドライバーの意図の解釈といった、ニュアンスの細部も違ってくる。そのままポンづけで流用できるものばかりではないので、噛み砕いて応用する力は必要だろう。

出版業界の皆様には、 以前取り上げたこの辺り より、本書のように、地味だが真面目な本を翻訳して、みっちり売ってほしいと思うのだが。
意外とロングテールになったり・・・しないかな。(笑)


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コメント

_ moped ― 2011/09/19 23:36

洋書のライディング本を読んだことはありませんが、
この本は経験に基づくノウハウを体系だてて記載しているようです。
なもんで、この本は読んでみたいです。

日本の書籍だと、極めてエモーショナルで、
結果として「ライディング道の指南本」になってしまい、
気合と根性で乗りこなせるような誤解を招きます。

物理的に分析すべき箇所と、ライダーが担うべきところが、
渾然一体となっているのは、和書の難点です。

_ ombra ― 2011/09/23 18:23

毎度、コメントありがとうございます。

そうなんですよね。何だか、画一的なカリキュラムや、上から目線の「べき論」に陥りがちな、妙に閉じた印象のものが目につくような気がします。

とはいえ洋書でも、「ハイスピードライディング」の類がやはり多いようで、本書のような「現場モノ」は少ないとか。なので、それなりに受けて(売れて)いるようです。

もういいかげん、限界間際のスポーツ性で売るような、何とかの一つおぼえは卒業して、それ以前の、本当に基礎となる「生きて帰ってくるための情報」を、まず充実してほしいと思うのですが。

そういった、すそ野の広さで、まだ負けてる、ってことですね・・。

相変わらず、「スーパースポーツ」または「アジアの安っすい荷車」の二者択一」では、業界、寂しいと思うんですが。

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