「 十字軍物語 」 ― 2011/10/15 18:08
十字軍の実際を描いた、歴史読み物
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「売れているものに、良いものなし」
そんな私が、こんなメジャーどころを書くなんて。(笑)
いえ、実は塩野先生は好きで、満遍なく読んでます。
基本的に「男を描く」人だと思うので、ローマでも、やっぱりカエサルの辺りが筆ノリがよくて、面白かったように思う。
でもベネツィアあたりは組織論としても面白く、何回か読んだ。
マキャベリ辺りの短めのも含めて、イタリアにまつわる何がしかを、いくつか教えていただいたように思う。
そんなわけで、実はミーハーな読者の私なのだが、何となく、この人はそろそろ、宗教について書くのではないか、と思っていた。
初めに、この題名を見たとき、おっ、来たか?と思ったのだが。
内容を見ると、半分しか合っていなかった。
宗教の何が、ヨーロッパをああした(している)のか、書くのではないかと思っていたのだが。
ヨーロッパ史を、宗教観の縛りなく、リアルに描くとこうなる、というアプローチが取られただけだった。
ところで。
男と女の、「理解の仕方」というのは、全く違う。
男は、細部を集めて全体を組上げる方向で、ディティールの量を誇ったりする。一方で、女は、まず平気な顔で全体を丸のみして、ぼちぼちと細部に至る。しかも、この著者のようにデキる女だと、呑み込むものが相当な大きさでも消化不良は起こさないし、細部の方まで、きっちりと消化しコナしている。
かくして、大きさと、ち密さの両方で、「かなわない」印象となる。
デキる女が、いい男を「好きで」描く。
この人の本は、大体はそのスタンスだ。
今回も、やはり男の物語と言える。
そして、いつも通り、痛快に読める。
皆さんが読んでも、そうだと思う。
「デキる側の視点」に、いられるからだ。
デキるオンナである著者の視線は、デキるオトコと共にある。
読者も、そこに同化する。
だから気分よく、痛快に読める。
だがそれは、まあ有り体に言ってしまえば、「上から目線」だ。
一方、私はといえば、既に余裕も余地もあまりない、ただの平均以下の中年だ。
だから著者の視点には、少なからぬ違和感がある。
歴史の表舞台で、主人公たちが動き回る傍らで。
攻め込まれたイスラエル。
残され、八つ裂きにされ、肉片として捨てられる一般庶民の方は、さらっと流されて終わってしまう。
一般庶民も、幸せに暮らすにはどうするか。できれば、そこが知りたい。そう思うのだが。
善良で有能な人材が、ふさわしい地位に座るまで待て、では解決にならない。
読書というのは、実際はただ文字を追っているだけなのに、何かすごいことをしたような気になったりするものだ。
「使えない読書家」が意外と多いのは、そのせいだ。
注意しないと。
面白かったけど。(笑)
はやく3巻目が出ないかな。
Amazonはこちら
十字軍物語(1)
十字軍物語(2)
絵で見る十字軍物語
コメント
_ moped ― 2011/10/16 17:38
_ ombra ― 2011/10/16 21:13
おばんですー。
塩野さん、あの長んがい「ローマ」を終えた後も、そのまま時代を降りる形で書き続けています。「海賊」続けて「十字軍」と。
この「十字軍」も、宗教史観にとらわれずに済む日本人のアドバンテージを、存分に生かして書いています。ヨーロッパと中東の資料を並べこなした上で、初めの十字軍にはこんなイイ男が居た、その後イスラムが奪還したのは、このイイ男がいたからだ・・・とやってます。(笑)
「神が望んだくらいでは、国は維持できない。」
西欧の、キリスト教をバックグラウンドにした通説を、ぐっさりと批判もしています。
例のように、視点は高く広いので、いつものように、面白く読めると思いますよ。
塩野さん、あの長んがい「ローマ」を終えた後も、そのまま時代を降りる形で書き続けています。「海賊」続けて「十字軍」と。
この「十字軍」も、宗教史観にとらわれずに済む日本人のアドバンテージを、存分に生かして書いています。ヨーロッパと中東の資料を並べこなした上で、初めの十字軍にはこんなイイ男が居た、その後イスラムが奪還したのは、このイイ男がいたからだ・・・とやってます。(笑)
「神が望んだくらいでは、国は維持できない。」
西欧の、キリスト教をバックグラウンドにした通説を、ぐっさりと批判もしています。
例のように、視点は高く広いので、いつものように、面白く読めると思いますよ。
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最近は、塩野さんの作品読んでないですー。
(次のテーマは何なんでしょうかね、興味があります)
十字軍については諸説あるとは思いますが、
基本的に立脚点は欧州で、侵略した側の歴史です。
いままでは、勝った側に歴史を残す資格が与えられてきたので、
「十字軍なんてとんでもない」というイスラム圏からの見解(歴史)も、
私は是非知りたいです。