読書ログ 「アフリカはまだか」 ― 2012/06/02 05:30
友人と連れ立って家出した中学生が、アフリカ行きの船にもぐりこむ
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図書館で、バイクの方の伊東信さんを検索していて、引っかかった本だ。
著者は、同姓同名の別人である。
若年向けの読み物で、バイクには全く関係ない。
だが、一応、読んでみた。
せっかくの、縁なので。
バイクの方の伊東信さんは、1940年の東京生まれ。
こちらは、1928年 酒田市生まれのかたである。
解説に、幅広い分野で活動されていた作家さんであり、児童文学も手がけていた、本書もその一つ、とある。
刊行は、1977年。
中学生が、学校や(クラスの女の子や)家庭でのあれやこれやが重なって、勢いで友達と家を飛び出し、港で見かけた船にもぐりこんでアフリカ行きを夢見る、というお話だ。
何せ、出たとこ勝負の中学生、まるで稚拙でなっちょらんのだが。本人らとしては、いっぱしの冒険のつもり。
あの世代の、いたいけで不安定な現実感が、よく書けている。
作者は、その不安や曖昧さを、肯定的に描いている。
だから、読後感はなかなか好かった。
35年前の本である。
黄ばんでいるし、かなり汚れていた。
これまで、たくさんの手を経て来ただろうと想像される。
昔の少年少女は、こういうのを読んで、何かを感じて育ったのだ。
(私はそこまでマジメじゃなかったが・・。)
今や、モノは豊富だし、ゲームやら何やら、刺激は強い昨今だが。
その分(それ以上?)、押さえつけるものや、押しつけられるものも、増えてしまったようにも思う。
面前には大したものも無くて、どちらかというと荒涼としているのだが、そこへ一歩を踏み出そうという刹那の、自分が肯定的に感じられる瞬間。
この、ささやかな自由感は、今は無いなあ、と懐かしく一読させていただいた。
この本が、次に読まれるのは、いつだろう。
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アフリカはまだか (1977年) (ポプラ社の創作文学)
バイクの本 「イトシンのバイク整備テク 」 ― 2012/06/03 06:17
先週に続いて、イトシンさんである。
ネットで検索してみて、唯一、新刊で残っていた本がこれだった。
近くの図書館にあったので、借りて見てみた。
その名の通り、バイクの整備や調整について、イラストで平易に解説している。
イラストが多いせいか、何となく既視感があるのだが、巻末に「本書は当文庫のための書き下ろし」とある。
実に基礎的な所から、難易度が高い所まで、幅広く記述されている。著者自らによるイラストがまたわかりやすくて、ややこしいメカの構造なんかも、ビジュアルに理解しやすい。
この手のメンテ本で、普通は既知扱いで書かれないような、すごく基礎的な内容や、簡単がゆえに習わずに自己流で済ませているような所まで、キッチリ説明されているのが有用だ。工具の選び方、ネジの回し方のいろいろ、オイルや、ワイヤー類の替え方・・・。プラグキャップの替え方なんて、知ってます?。
難しい方は、タンクの塗り方から、キャブの調整、ピストン交換のあたりまでを網羅している。
キャブは、小排気量の単発VMを想定していて、中の構造や機能を説明しながら、整備の方法を詳細に解説している。
エンジンについては、2stの腰上だけを扱っていて、4stのヘッド周りや、クランク周りまでは網羅していない。
全体的に、原付クラスの小排気量車を自分でいじくり回したい初心者(に近い人)を想定していて、例えばもう少し大きな排気量の、CVキャブが連なるような(構造が複雑な)バイクまでは届いていない。無論、最新の電子制御も含まれない。
しかし、この値段で全300ページ、内容はなかなか充実している。単純に通読しても、知らないことや、感心することが結構あって面白いし、後から欲しい所だけ引くような、辞書的な使い方もできる。(というのは、いつぞや紹介した このあたり にも似ている。) 知識と即戦力の両方に使える、実力選手だ。
このくらいの知識を持っていれば、あらかたの車種の通常整備はこなせるので、万人にお勧めできる内容だし、メカの初心者はもとより、メカいじりに回帰したいオジサン(私のような)も、持っていて損は無い一冊と思う。
そろ、「キャブの調整」なんて死語になりそうなご時勢だ。
ちょっと古めのベスパを仕入れて、自分でいじってみよう、などと目論んでいる皆さんは、一冊イッといた方がいい。怪しげなメンテブックなんかより、よほど使えること請け合いである。
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イラスト完全版 イトシンのバイク整備テク (講談社プラスアルファ文庫)
ちなみに、図書館にはこれもあって、一緒に借りてみた。
「イトシンのイラスト50ccバイクレストア 」
内容は題名の通りで、原付のレストアをするための、手順、やり方、コツなんかが書かれている。
題名も内容も、これまた既視感があるのだが、上の本とは別物だ。 内容としてはダブりもあるが、「レストア」がお題なので、前提として、バイクは「朽ちかけて」いて、それを「救う」ことを想定して書かれている。錆びついたり、エージングを経て古びた部品の扱い方の記述なんかが豊富だ。
・ 自分で手を入れた機械(バイク)が、まっとうに動き出す。
・ さらに、それが自分を運んでくれる。
これって、本当に楽しいのだ。
よく、旧車乗りを「ろくすっぽ動きもしないのに、何が面白いんだ」と非難する人がいるが、お門違いだ。彼の目的は、「乗ること」ではなく、「動かすこと」なのだ。
確かに、それを自力で実行しようと思ったとき、原付はうってつけのカテゴリーだ。題材(中古車)は豊富だし、機体も部品もとにかく安い。構造も簡単で、市場にパーツも豊富なので、工夫の余地も広い。スピードレンジが低いので、失敗してもシャレで済む。
若い人に、バイクいじりは面白いですよ、というのを紹介する本でもあると思うのだが、今の若い人は、イジるどころか乗りもしない。もう売れない本なのだろう。刊行は2000年だが、こちらは既に絶版である。
若い人だけではなく、自宅の隅で朽ちかけている原付なんかをイジって遊ぼうというオジサンにも有用な本だし、上の文庫に比べれば大きめの版なので、そろ近くが見えにくいオジサンにもありがたいんだが。(笑)
残念だ。
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定価は\1500です。
イトシンのイラスト50ccバイクレストア (講談社SOPHIA BOOKS)
さて。
もうすぐ梅雨だ。
「雨の週末は、次のメンテ計画を練りならが、ゆったり過ごす」
なんて、いかがだろうか。
写真集 「廃道 棄てられし道」 ― 2012/06/03 16:54
廃道を撮った写真集
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道の最後を扱った写真集である。
道路愛好家(バイク乗り)の端くれとして、ちょっと期待したのだが。
残念なデキだった。
カラーフィルターなんかがキツすぎて、わざとらしさが過ぎる。
「わざわざそんな変な顔しなくても、十分こわいわよパパ」
とそんな感じだ。
以前取り上げた、 これ のように、白黒でもって、淡々と事実を伝える方が、迫力があったりするものなのだが。
ちなみに、上の写真はウラ表紙である。
オモテ表紙は、こちらのAmazonで。
廃道 棄てられし道
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全く関係ないのだが、白黒写真の話題のついでに、最近考えていたことを、ちょいとメモしておく。
「素の写真」についてだ。
感性を乗っけるシステムは、シンプルなほどいい。
画素の信号をそのまま並べた写真が、一番、素に近いはずだ。
しかし、世のトレンドは、逆を行っている。
画素を小さくして、たくさん並べる。
画素が小さいので、性能(S/N比とか)は悪くなる。が、それは後段の画像処理で補う。
画処理は数値計算なので、データの点数が多いほど、やれることが増える。
さらに何枚か合成したりで、もっとデータを増やす。
そして、「所望の絵」を作り上げる。
その方が、理にかなっている。
少なくとも、売る方にとっては。
センサー製造は、ノウハウの世界だ。
画処理プロセッサは、最新の製造テクノロジを使う。
両方、開発にはカネがかかる。
だからこそ、後発からテリトリーを守り、商売につながる枠組みを保持するのは、重要なことだ。
かくして絵作りは、モード自動選択の画処理チップの担当となり、プログラマの意図と能力が主役になった。
レンズの能力とか、使い手の意図なんかを、置いてけぼりにして。
「素の写真が撮りたい」
白黒のデジカメ。
画素は大きく、感度やS/N比を稼ぐ。
画素数は、そんなに要らない。3メガもあれば何とかなる。
画素チップの大きさは、せめてフィルムと同じにする。
(スティッチングしないで済む、でかいマスクを扱えるステッパーが欲しい。)
カメラボディは、当然、マニュアルだ。
感性を乗せるシステムに、「オート」は要らない。 インタフェースも、古い方式に合わせておけば、お手持ちの、古いけど優れもののレンズを、そのまま使える。
でも、露出計くらいは・・・あると便利かな。
露出のオートブラケットも。
背面モニターは必要ない。どうせ、何を撮ろうったって、撮り直しなんか効かない。赤ん坊に「今の笑顔をもう一度」、電車に「もう一回走って」なんて訳には行かないのだ。
データは、RAWのみでいい。現像は家に帰ってから、後でゆっくりやればいい。
まあ、デジタルパックでもいいんだけど。
オートブラケットはムリかな。
現像であらかた救えるくらい、画素のラチチュードが広ければ問題ないんだが。
さてと。 PCで、現像だ。
画素は少ないし、白黒だから、処理はたいして重くない。
コントラストや、ザラツキ感なんかに、何度でも、思いっきり凝れる。
昔の、暗室趣味の再現だ。
しかも、気軽に、いくらでもやり直しが効く。
できれば、印画紙に焼き付けの時に手の平ひらひら〜のような、裏技も再現できれば文句なしだが。
そうやって作った「この一枚」は、プリントする。
画面で見るのと、紙で見るのは、全く違う経験なのだ。
プリンタや、トナーなんかは専用品だ。構造簡単で安いんだけど、白黒写真に特化していて、侮れない「一品」。
ちょっと象牙色がかった、味のある用紙なんかも選べるぞ。
この、一連のエコシステム。
あの先達の、白黒写真の、表現ツールの再現。
と、こんなのがあったらいいなあ・・・と夢想していたのだが。
まさか、ライカが出てくるとは・・。
「デジタルができること」のあらかたは、本質ではなくて、補佐に過ぎない。
だから、「何がしたいのか、本質の確信」と、「デジタルにやらせることは何か」の総括は、並行して、常に必要だ。
何だか、そういったスタンス(足の置き場)や、作り上げのプロセスの足腰の強さで、まだまだ負けているような気がしているのだが。
読書ログ 「外交的思考」 ― 2012/06/09 05:41
日本政治外交史の専門家による短編集
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月刊誌などに連載を持つ著者が、ここ数年にあちこちに著した短編を集めた本だ。題名は、その連載の題名を一つ、そのまま流用したとのことで、本の内容を通念的に表したものではない。
短編の寄せ集めなので、著者の考えが一貫して述べられているわけではなく、そういった「本流の本」を補完するサイドテキストとして用いられるべき本だ。これを読めば、外交的思考について、何か深いものがつかめるわけではない。題名買いしてはいけない本だ。
全部で三つの章がある。
第一章は、2006~2011年当時の国際情勢と、そこからの連想を記した記事を集めている。各々が数ページ程度の短編なので、あまり込み入った話はできないという背景はあれ、全体として尻切れトンボで、大まかな概観の連なりといった風情だ。よくよく考えて提言すべし、とは言うものの、自分の提言を具体的に書いているわけでもないので、批判している相手と同じ、とそんな感じだ。あまり面白くはなかった。
第二章は「読書ログ」である。といっても、政治外交関連の、これもんに難解な文献の読書ログで、どこかのブログとは格が違う(笑)。本を読みながら、想起したり、考え込んだことを書き留める内容で、「著者の目線で本を読む」という経験に近い。おお、こういう読み方もあるのか・・・と、ここは面白い体験をさせていただいた。
第三章は、上の二つに分類されなかった「その他」を集めた章で、学生時代の思い出話や、趣味の音楽の話題など、比較的、軽めの内容になっている。著者の実直な人柄が感じられる文章である。
総じて、悪い本ではないのだが、この程度の「過去ログ集」をこの値段というのは、少々お高いだろう。
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外交的思考
バイクの本 「近頃のバイク馬鹿読本」 ― 2012/06/10 05:47
バイク乗りの世相を面白おかしく描写する
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1996年の刊なので、とっくに「近頃の」ではない。
昔話だ。
TWなんかが、流行っていた頃らしい。
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前書きに、「昨今のバイク雑誌はつまらないので、もっと身近な題材を書いてみた」とある。 少しは期待できるかな、と思ったんだが。
やっぱりダメだった。
当時のバイク界の風俗をPickしてナニガシかを書いているが。ネタ元はもっぱら観察や伝聞で、取材は無い。想像といえば聞こえはいいが、要するにウソなので、彼が前書きでバカにしていた「現実感の無い峠フルバンクの、最近のインプレ記事」と同レベルだ。
「ボクの視点は鋭い」を前提にした、ぱっと見の情景「あったなそれ」が続くが。単に、表層だけをなで回して、もっともらしく修飾しただけだった。
その面白がり方の基準が、どうにもシモネタだ。さんざ撫で回して見せて、核心には近づかずに、興味だけをそそるやり方は「ポルノ」とも言える。(こういう記事って、意外と多い。) 「脳みそは股間に二つ」というタイプの人には、面白いのかもしれない。
総じて、論評ではなく、ただの揶揄であり、読者にひたすら「型」を示すというスタンスは、雑誌界の悪しき伝統をキッチリ踏襲している。
ちょとでも、鳥瞰したような視点を期待したのだが。
(ムリだわな・・。)
自己顕示と、ウケ狙いの極端な文章は、2ch的な書き方の原点かと感じた。
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近頃のバイク馬鹿読本―WHAT’S GOING ON? Mr.BIKE LIFE
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