ツーリングの本 「心のピースサイン」2013/06/16 06:12



ピースサイン。
何とも、時代を感じさせる題名だ。

しかし、もう死語もいい所だと思うので。
ピースサインて何?なんて辺りは、なにげにスルーしておく。

オートバイ誌の投稿コーナーで賞を取ったという、一般読者によるツーリングレポートをまとめた本だ。元は、80年代終盤~90年代初めにかけて書かれた記事で、出版は94年。基本、20年前のお話である。

賞を取っただけあって、読みやすい文章だ。多少こなれてはいるものの、文筆業のプロのような小ざかしさがない。

どんなバイクに乗って、どこに行って、どんな目にあって、何を感じた、考えた・・・が、素朴な筆致で、淡々と書いてある。破綻の無い、まじめな文章は、著者の人となりを表しているのだろう。(小学校の先生らしい。)

まったく、何てことない本なのだ。

今や、素人さんのツーレポなんて、その辺のブログにでも、それこそ掃いて捨てるほどある。

20年前の情報だから、今読んでも、即時的に役立つわけでもない。

でもね。
意外と、読めた。
ひどく懐かしかったのだ。

チラホラだが、写真もあって。
あの頃のバイク、あの頃のウエア。
あの頃の、パーキングの空き加減、など。

・・・ツーリング、今より楽しかったなあ、と。

ちゃんと書くと、
当時の空気感のようなものが、意外と、色濃く感じられた。
そして、多分、その感覚を共有している世代だな、とも。

確かに、
あの頃の雑誌は、こんな感じの投稿記事が、結構あった。

当時、ネットもなくて、情報が限られていて。
雑誌は、今と違って、もっとマジメに読まれていた。

今のように、「足りている上に売るのがプロ」みたいな、空々しい意地の悪さは、薄かったか、少なくとも、人前に出るのを避ける程度のたしなみはあった。書く方にも、ちゃんとポリシーのようなものはあって、たかが雑誌の記事でも、現実感のようなものが、一応でもあったのだ。

現実感。
嘘やイメージではなく、本当にあるもの。

本書の場合、本人が、実際に走ったことを書いているので。
そりゃあ、現実感はあるんである。

そして、軸がシンプルだから、話が、リアルに立ち上がって見える。

バイクに乗ること、
乗って、どこかに行くこと、
それが、単純に楽しい。

楽しいから、道具や、目的地をとっかえひっかえ、繰り返す。
「そのために生きている」、と言い切れたりする。

乗っているバイクのインプレも、チラホラあって。どうも、著者さんは、カワサキ党のようだ。しかも、いろいろ乗ってみて一番カワサキがよかった、という「たどり着き型」なので、なかなか手ごわい。(笑) そして、根がマジメなせいか、カワサキの何がいいのかを、ちゃんと伝えようとしてくれている。

奥様は、GPz250Rに乗り始めてから、見違えるほどうまくなった、
旦那さんは、憧れのGPz900Rを買ったが、エンジンの熱気が凄まじい、
と、 どこかで 見たようなことが書いてある。

一番良かったのは、GPz600Rだとも。
私も、日本で走るには、600cc前後が一番いい、と思っていて。
ラリオ サベージ が一番楽しかった…。)
でも、600クラスって、なかなかいいのがないんだよね。未だに。

しかしまあ、日本中、よくもこれだけ走ったもんである。
しかも大体は、中睦まじく、奥様とお二人だ。( レアケース ですな。)
当時、これだけのレポートをまとめて上げられる人もそうは居なかったろうから、賞を取り続けたのも納得がいく。

しかし、今、ツーリングをシンプルに楽しむという、こんな感覚を、懐かしく振り返ってしまう、ということはだ。そこから、時代はズレてしまっている、ということでもあるのだろう。

あの、峠での、死ぬほどドンちゃん騒ぎを経ても、真似ること(レプリカ)は、太い軸であり続けている。

走ることを別にした「所有感」も、モチーフをとっかえひっかえして、生き残っている。(ネイキッド、アメリカン、TW、盆栽、名車、旧車・・・)

何だか、バイクのハードに依存する割合が、相変わらず増えているような気はするのだが。

一方で、いい加減な補修しかされていない道路は、アスファルトが薄くチビてきていて。さらに、地震で凸凹になったとて、いまだに放置され続けている。

ある意味、人間も環境も劣化しているようなのだが。バイクのハードのテクノロジが、それを支えてくれるわけもない。

以前ほど、楽しくは無くなった。
その、停滞の時期を経た今。

また、あの「オッサン達」が、大挙して舞い戻って来ている。
新しい皮袋に、古い酒(価値観)を、満タンに携えて。

その風景の中で、私はといえば、馴染んだはずのデカすぎるバイクを、やっぱり、操りあぐねていて。昔ほどは、身動きがままならない。

この本で感じたのは、多分、ただのノスタルジなのだろう。
皆さんが、同じ事を感じるのかは、わからない。

この著者は、まだ乗っているのだろうか。


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心のピースサイン―バイクツーリングレポート

コメント

_ moped ― 2013/06/23 08:33

まいどです。

ツーリング中にピースサインすること、
減ったと思う今日この頃です。

不要なもの(情報とかを含む)を捨てられれば、
バイクを単純に楽しむことができるでしょう。
(簡単には捨てられないことが、難しくしている)

_ ombra ― 2013/06/24 05:52

どうもです。

> 減ったと思う今日この頃です。

私は全くしません。見たことも無いです。
絶滅したのだと思ってました。
地域限定(北海道?)で、まだ生きているんですかね…。

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