80年代のバイクの本(2) ロードレーサー2015/03/08 05:51



80年代のバイクの本。
続きましては。

万沢さんの、ファミリーバイク入門書はパスしましてですね。
楽しくて安全ファミリーバイク入門―より上手に乗るために (1980年)
(万沢さんと思しき図書は、 この前 取り上げたのでね。)

今回は、バイクのレーシングマシンをまとめた図鑑を取り上げる。

小学館
万有ガイド・シリーズ 10
ルイジ・リボーラ 著
中山 秀太郎 日本語監修

当時の洋書の翻訳である。 原著の情報はこちら。(イタリア語ですな。)

監修者の来歴はこちら。

「万有ガイドシリーズ」という不思議なネーミングの、シリーズ物の図鑑の1冊らしい。他にも、飛行機や蒸気機関車、クラシックカーや動物とか星座とか、いろんなものがあったようだ。ハンディなサイズだが、紙は上質、厚さもバッチリ(300ページ近い)と、充実の内容である。

近ごろの日本では、「ロードレーサー」というと、もっぱら自転車の方を想起されてしまうのかもしれないが。無論、本サイトで取り上げる限りは、競技用オートバイの意味でございます。

ロードレーサー、つまり「オンロード用の競技バイク」、レーストラック用のレーシングマシンと、スピードレコード用のバイクを扱っている。オフ車の類、モトクロッサー、トライアラーなどは含まれない。

この本、本当に驚いた。
バイクのレースとレーシングマシンの歴史に関して、これほど詳細に、かつ正確に記述していた資料が、こんな時代にあったのだ。

原著は、1977年の刊。
昭和52年だ。

まず初めは、バイクのレースの歴史、その概略の記事だ。
お話は、バイクのレースの黎明期から始まる。
19世紀の末。
蒸気機関とガソリン車の混走である。

ルールも目的も、全然違っていた。
宣伝や販売そのものだったり、実験だったり、披露だったり。
(なもんで、車両が売れたのでレースは欠場、とそんなエントラントも。)
サーキットレースとは限らない。公道で「どこそこまで、誰が早く着くか」形式とか、いろいろあった。
何せ、初めてのヤッツケ行事なので、「やってみたけど、上手く行かなかった」例も多かったと。
(結局、誰もゴールにたどり着かなかった、とかそんなオチも。)

初めのころは、フランス勢が優勢だったらしい。当時、イギリスではエンジンつきの乗り物は新参者扱いで、旧来の馬車なんかに比べて冷遇されていたこともあり、レース関係は出遅れていた。イギリス勢が巻き返すのは、その中央政府とは関係がない「マン島」に助けを求め、成功したからだ、とある。(なんか笑。)

環境も次第に整備される。クラス分けなんかのレギュレーションができて、舞台はサーキットトラックに集約されてくる。スプリントだけではなく耐久とか、ヨーロッパだけではなくアメリカ(デイトナ)とか、場所もやり方も、増えたり落ち着いたりする。

主役も次第に変わっていく。イギリス勢の次は、イタリア勢が伸して来る。初めはビアンキとグッツィ、次はジレラとMV、その間にドイツ勢、BMWやDKW。戦後のゴタゴタを経て日本勢が入ってきて、それからずっと今に至る。

次の章は、レーシングバイクの紹介だ。各々のバイクについて、機械的な概要と活躍当時の戦歴、馬力と最高速などの基本スペックと、容姿はイラストで図示している。このイラストがまたキマっていて、いいアングル、かつ鮮やかな色彩で、機体が持つ印象を、高いクオリティで伝えている。(当時はまだ、カラー写真をふんだんに使うより、イラストの方が楽だったのかもしれない。)

そういったレーサー達が、生産国毎にまとめられて、年代順に紹介されている。

初めは1888年から、刊行ギリギリの1977年まで、もう、あらん限りの台数を集めました、というボリュームだ。逐一数えてはいないのだが、ざっくり250台以上はある感じだ。

しかも、記述が正確だ。
まるで、横で見ていたかのような書きっぷり。
(原著の著者はイタリア人なので、本当にこれらレースの横で見ていたのかもしれないが。)

例えばだ。
Guzzi V8 (クリックで拡大)

巷の定説の類、
  作ってはみたけど、デカ過ぎて使いこなせなかった、
  カネ食い虫で、Guzzi のGP撤退の引き金となった、
  背伸びしすぎたせいで信頼性が乏しく、結局は未完で終わった、
そんなことは、どこにも書いてない。

どちらかと言うと、 Da Corsa のような、「見る眼のある人がちゃんと見た」描写に近い。
「カルカーノはしっかり仕事をしていて、ちゃんと当初の目論見通りの、いや、それ以上の性能を発揮して、終盤には信頼性も獲得して、キッチリ使えていた」とある。

なんと、V8では厳しかろう場面に備えたバックアッププランも具現化してあって、後にちょいと結果も残した、と。そんなことまで書いてある。(あとで Da Corsa をちゃんと見直してみよう・・・)

(クリックで拡大)

そんな感じで、いつ頃、どんな情勢で、どんなライダーやエンジニアが、何を考えて、どんな戦跡になったか。いわば、その機体に関する「ドラマ」が、2ページ弱の物語として、淡々と綴られていく。

バイクを速く走らせることに、必死になって取り組んだ人たちがこんなにいて、その人たちが、どんな環境で、何を考え、実際に何をして、どうなっていたのか、よく伝わってくる。

レーサーというより、レースそのものの歴史物語なのだ。

これには参った。
面白い・・・

あっ、パラパラ見ているだけでも楽しいです。

ポーキュパイン

ベロ

レアですな。ノートン・デイトナ。

DKW

NSU

クライドラー

イモラ (ドカの方ね)

ラベルダ

パトンだ~!
今でもあるんですよ実は。
http://www.paton.it
ストリートモデルもあるんだよね。どこか輸入してくんないかな。

ブルタコ50
在りし日の、小排気量レーサー。個人的に、この徹し具合が大好き。(笑)

そして終盤に、技術の変遷を短くまとめた記事が来る。


全体の印象をまとめると、始終、観客目線で書かれていて、例えば、メーカーに対して深く取材したとか、そういう感じではないので、細部に関しては、多少の間違いはあるのだろうと思う。しかし、昨今のように、使い古された(都市)伝説に汚れた類の記述ではないから、全体の流れとしては間違っていないし、当時の観客の生の認識を、正しく伝えてくれているのだと思う。

いろいろ、耳の痛い指摘もあった。
例えば、日本車に関して。

日本は、ヨーロッパのレース界に、機械的にはマネでもって入り始めた。しかし、ヨーロッパのメーカーは、いくつかのヒントを与えただけのはずの日本車が、数年後に圧倒的な性能差を持って戻ってくることに唖然とするはめになる。レーサーでない市販車の方でも勝負は圧倒的で、西欧のメーカーは、大切なアメリカの市場を失った。しかし、それをもたらしたのは、多くの日本人が考えるような「品質」ではなく、実際は「価格」だった。今や、圧倒的な規模に成長した日本のメーカーは、きっとこの先は、小回りできずに苦労するようになるだろう。

ううむ。
イノベーションのジレンマ的な指摘(同じようなことばかりやっていて、仕事に斬新さがない)のこととすると、まさにその通りのような・・・。

昭和56年(1981年)に、この仕事が、定価¥1850で、しかも日本語で読めていたというのは、やはり驚異的だと思う。

まず原著の洋書が凄いのだが、翻訳の方もクオリティが高くて、素っとん狂な訳もないから、訳し手も良かったと思う。

40年近く前に、こんなに詳細で正確な資料があったというのに、今でも、上に挙げたGuzzi V8のような「ホラ話」を延々と申し送りしているアホが多いというのは、一体、今まで何を学んでいたんだ人類は!と、またブチ切れたくも悲しくなった。(雑誌のインプレでは、バイクはいつも「進化」しているようだが、人間の方はからっきしらしい。)

この本。
再販してくんないかなあ・・・。(本気)


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ロードレーサー―競走用 (1981年) (万有ガイド・シリーズ〈10〉)
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