'90sのバイクの本(6) バイクで駆けるインドシナ1万キロ2015/08/16 07:10

1994年7月刊


賀曽利 御大のツーリング記である。

当時、既に売れっ子だった御大が、BACK OFF、月刊オートバイ、旅(JTBの)といった雑誌や、共同通信などに連載した記事を、おまとめ&追記したものらしい。

今度のステージは、インドシナだ。
インドネシアではない。
具体的には、タイ、ラオス、ベトナム、カンボジア。
マレーシア、シンガポールも少々。

90年代の中ごろとは言え、まだ内戦が進行中だったり、そうでなくても戦闘の傷跡が生々しい一方で、華々しい経済発展と、共産主義なんかがパズルのように入り組んでいる。さらに、民族や言語、宗教は別の模様で重なっていて、人々は、優しかったり、大らかだったり、ゆっくりだったり、融通が利かなかったりと、いろいろだ。ジャングルは深く、道はぬかるみ、メシは簡素だが美味く、でも下手をすると腹を壊す。懐は深いのだが、入り口は狭く、所々で難渋が予想される。(ツーリングはしにくい。)

案の定というか、いきなり、バイクを空輸した先のタイで通関がならず、えらい時間を空費する。それを待つ間、仕方なしに、バス&電車で、一足早くインドシナ一周をして。それでもまだダメで、一旦日本に戻って、またあちこち国内をツーリングして記事を書いて。

そんなこんなで、やっと当地でバイクを受け取って走り出すまでに、実に4ヶ月。(ここまでで、本書のページ数も半分を費やしている。笑) 何でも、タイは国内で生産している150ccの枠を越えるバイクの輸入を制限していて・・・なのだそうだが。まあ、世界を旅している御大にとって、バイクの受け取りに半月かかるなんてのは珍しくないらしいが、それにしても長すぎだ。でも、同じようなお役所仕事には、この先も苛まれることになる。

まず、国内のビザや走行許可証を取とうとするも、正面玄関からでは埒が明かず、コネを作る所から始めるという有様。それより何より面倒なのは、何と言っても「国境越え」だったようで、一応はビザを取って、いつものように楽観主義で「行ってみれば何とかなるだろう」と国境へ向かうのだが、「陸路からの入国は認めない」とけんもほろろなのが大概で、文字通り「当たって砕けて」しまう。しかし、ようは「陸路はダメ」と言っているだけで、一旦引き返して、先方の首都(ハノイとか)にバイクごと空輸すれば、ほぼフリーパスだったりで、のど元過ぎればナンとやら、「いい国だなあ」となったりする。で、そこから、あの「通してくれなかった国境」に、逆方向からお礼参りに行って、「帰ってきたのか!?」となって、酒盛りになったりしている。

カンボジアでは、大きな戦闘のすぐ傍を命からがら駆け抜けたり、その先の国境では「行くのも戻るのも許さない」と、えらく無体な目にあったりと、文字通り凸凹だらけの旅路だが。終わった後に振り返れば、また今度も、筆者にとっては、印象深い旅となったようだ。

もともと、この辺りの地域を走ろうというのは、筆者の強い願望から始まっている。(いつもだけど。) 同じアジア、民族的にも近くて、稲作など日本の原風景とも言えるこの地域を、我が身で直に走るということに、特別の感慨があったと。まさにその願いをかなえてくれる、貴重な経験となったようだ。(実際、写真に写る日焼けした御大は、現地人と同化して、区別がつかなくて笑える。)

ある程度は出来レースだった「水曜どうでしょう」のベトナム・カブ記なんかとは違って、掛け値なしの完全な単独行、しかも、この世界のプロ中のプロである御大のレポートとくれば、面白くないわけはない。私はかなり楽しめた。

見たこと感じたことの細かい逐一を、つぶさに教えてくれる本書なので、私が書き写すと、かえって塗りつぶすことになる。ご興味をお持ちの向きは、安い古本も出ているようなので、本書を直接、ご覧いただくのが良かろうかと思う。

ちなみに、使ったバイクは、スズキRMX250。
113kg、40ps。
2st時代のピーク&ラストである。
よかったよなあ、あの頃は・・・。(← 2st欲しい病 再発か?)

それにしても、御大は、いつもスズキのバイクばかりだ。
何ででしょうね。


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定価は¥1456(税抜き)
バイクで駆けるインドシナ1万キロ 単行本

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