読書ログ 世界ナンバーワンの日本の小さな会社 ― 2016/09/22 15:48
どうして、この本を手に取ったのか。
たぶん、どこかの書評で見かけたのだと思うのだが。
どうも、「また引っかかっちゃった」ようだ。
書評トラップ・・・懲りないらしい。(笑)
内容は、最近良くありがちな、「小規模ですけど真心をこめて経営に当たった結果、成功してしまいました」を礼賛する本だった。
まず、具体例を2例、事業の立ち上げから成功までの道のりを、比較的詳細に取り上げる。(礼賛すべきポイントを散りばめたり繰り返したりも、ちゃんと為されている。)
次に、その秘訣とやらを、箇条書きに挙げてサマリーにしている。
表題そのままに、何かしら起業のようなことを考えている皆様に対して、参考にしてもらう、激励する、のような用途で書かれたと思しき本なのだが。半ば予想されるが如く、実地の役にはほぼ立ちそうにない「読み物」であって、具体的な効能としては、むしろ「読んでほっこり系」かなと思われた。
実例として上がっている経営者の、事業に対する姿勢は真摯で、物語として読んでいるだけなら、意義を申し立てる余地はないだろう。(例えば、競合相手に言わせたりすれば、いろいろ出てくる可能性はあるのだろう・・・というのは、私の現実的な邪推であって、本書の意図からは外れる。) また、いわゆる先見の明とか、成功できる「隙間」を嗅ぎ分ける類の能力は、人並み外れた方々だ、というのも確かなのだろうと思う。
だが、そんなものだけでは、ビジネスは成功しない。というのは、どんな会社のどんな事業であれ、その最先端(or 最端部)で戦った経験をお持ちの皆様なら、ご納得いただけると思う。
成功には、ある種の幸運が必要なのだ。しかし、実際に成功した当人たちは、それを、努力、実力、人柄、才能、そんなものの故だと考えがちで、実際に、そう伝えたがる。
それが、思い上がりであったり、後知恵であったりするのは、例えば、彼と全く同じ事を今繰り返したとて、同じ結果が得られるわけではなかろうことが、如実に示している。
「二匹目のドジョウはいない」のは、ビジネスの世界では当たり前で、そういうことを言っているのではない。妥当性の検証が為されていないことの、端的な例示のつもりだ。
他人の成功を参考にするには、エッセンスや本質のようなものを抽出して、自分の方向性に合わせて応用するスキルが必要なのだが、その「本質語り」のための上位概念化が陳腐だと、従来の起業指南書と同じような言葉に陥ってしまう。抽象化ゆえに焦点がぼけてしまって、結局は、いつものセッキョーかお念仏と同じと。そんな辺りに着陸している例は多いし、本書も、その例に漏れない。
要するに、日本版の読みやすい これ という感じで、少々残念な読後感だった。
これは、起業せんとする、あなたのリスクを減らすものではない。
なんてのは、荒波に漕ぎ出さんと覚悟を決めた皆様には自明だろうから、余計なお世話だとも思うのだが。一応。
類例は、この辺かな。
計画と無計画のあいだ
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世界ナンバーワンの日本の小さな会社
読書ログ 究極のエンジンを求めて ― 2016/09/25 06:57
ずいぶん古い本だ。1988年の刊。
図書館で見かけて、題名借りした。
著者は、自動車会社でエンジン設計を担当し、1978年に退社して評論家に転じたという、古参のエンジニアである。
当時のクルマのエンジンについて、良し悪しを技術的に論評した記事が並ぶ。ページの造りは、A4版の二段組に、細かい活字とグラフや図表で、結構なボリュームがある。初出はモーターファン誌の連載記事だそうで、副題の「毒舌評論」の通り、オジサマがワルノリ気味に、いろいろと書いている。かなり専門的な書きっぷりで、読者にも、それなりの知識レベルを要求する。月刊の自動車工学や機械設計の読者あたりが本来の対象らしいが、そうでない人々にも「勉強にはなる」ペースであり、読んでいて息切れする感じではない。
とはいえ、30年近く前の本なので、エンジン関係の技術トピックといえば、給排気の慣性設計とか、シリンダーブロックや燃焼室の形状設計、加給など、機械設計に寄った所がほとんどだ。制御技術が本格的に立ち上がる前なので、そっちの話はほとんどない。(今見ると新鮮かも。)
いや、お話としてはそれ以前で、エンジン設計には哲学がなきゃいけないとか、技術の革新より儲かりゃいいのかのような批判など、精神論的なお話のウエイトも小さくない。
商売優先で、ユーザーの利益(乗る楽しみの追求)は二の次というメーカーの姿勢を糾弾する辺りは、結構共感できるのだが。この著者は、メーカーの技術を評価できないユーザーの方も、にべもなく一刀両断にしていて、当ブログなんぞよりも、よほど辛らつ、かつ奔放である。
多少のシモネタも交えたオジサマギャグも要所要所で炸裂しており、お話を楽しくしよう、盛り上げようという意図はわからんではないのだが、どうも、「エンジニアの話は面白くないの法則」にも忠実に則っておられていて、少々お寒い雰囲気を醸してしまっている。また、もともとが単行本化を考えていなかったのか、著者がお歳で忘れっぽいのかわからないが、同じ内容の繰り返しが結構あって、くどさを感じることもままある。
しかし、こうやって当時の技術を俯瞰してみると、全く著者の批判の通り、本当に周辺技術ばっかりで、エンジン技術の核心にかかわるようなものは皆無だ。どちらかというと、「とりあえず、やってみました」や、「何とかなりました(今だけは)」のような、その場しのぎの印象のものが多い。
一応、本書はバイクのエンジンも範疇に入っていて、例えば、巻末近くに、ヤマハFZ750の5バルブエンジンなども取り上げられているのだが、NRの8バルブエンジン(笑)を引き合いに、こっちよりはマシかな?などとやった後、多バルブ化の一般的な評論をしている。
全般的に、「いつまでもつ技術だろうか?」といったトーンの論調が多いのだが、その危惧の通り、この本にある当時の技術のほとんどが、もう今では完全に廃れていて、お目にかかれないものばかりだ。
本書刊行の当時、著者は65歳で、取材で訪れるメーカーの若い技術者は孫みたいなものだったようだ。質問にもろくすっぽ答え(られ)ず、技術的な情報も出し渋るメーカーの対応におかんむりで、宗一郎はもっと本気でやってたぞ!(どこのメーカーかわかっちゃうけど)、継承ができておらん!的な文句も散見される。まあ、メーカーにしてみれば、見返りが見込めないのに取材に協力する理由もない故の、ドライな対応だったのだろうとは思うのだが。
そして現在、それからさらに数世代を下がった自動車開発の現場は、トレンドの主導役を、電子制御に完全に譲り渡して久しい。(エンジン技術の本懐たる熱効率、燃焼コントロールは、直噴化で「終わった」感じすらある。) さらに、エンジン自身も、半身をモーターに乗っ取られて、キマイラみたいになってしまった。
他方、経営トレンドの方も、自動車の性能自体が、ユーザーが使いきれる範囲を完全に逸脱していて、使えもしないハイエンド域での微妙なニュアンスにプレミアを払ってくれる優良(有料?)顧客に、儲けのほとんどを依存するに至っている。技術そのものの意味よりも、「どうスマートに売らんかな」の方に焦点が行ってしまっており、結果として、著者が憂慮した、そのものの方向に進んでしまった、として良いようにも感じる。
「ヤッツケ仕事」に関しては、私はあまり非難できる立場にない。私のいるIC業界は、技術の進歩といっても「お隣のICとニコイチで同じ値段!」なんて仕事ばかりが求められた経緯があって、ヤッツケ仕事的な方法論に引っ張られ続けてきた。クルマの技術が、デジタル(古くは電子制御)に侵食されて久しいが、仕事のペースも、そんなIC屋やソフト屋なんかのスタイルに、乗っ取られてしまったような感じもする。
本書に戻ると、まあそんなわけなので、今読んでも、「ああ、あったなあ…」と懐かしさに浸れる瞬間はあるかも知れないが、技術的に拾える情報はあまりない。たまに、キラッと光る断片のようなものもあるにはあるが、それに気付いて拾えるのは、やはり、時代を知っている古参のような気もする。つまり、今、これを読み返したとて、実地の役立つことはほとんどなかろう、とそう感じる。
この本、当時は、それなりに物議を醸したらしいのだが。
今や、「伝わるはノスタルジーのみ」と、どうも、そういうことのようだ。
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大昔の古本なので、プレミアのようです。ちなみに、定価は¥2800。
数千円の価値があるのかは疑問で、個人的には、手近な図書館で探してみることを推奨。
究極のエンジンを求めて
続編もあるようです。
続 究極のエンジンを求めて
新・究極のエンジンを求めて
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