読書ログ ローマで語る ― 2016/11/12 21:30
あの塩野先生が、「映画を題材に息子と語り合う」という、キワモノ企画である。(笑)
図書館で見かけてめくってみたら、気軽に読める内容&ボリュームだったので。そのまま借りて読んだ。(他の普通の単行本は、じっくり読まないと内容把握が覚束ない分量があるので。通常は買って読んでおりますのですが。)
塩野先生は、幼少のみぎりから、ご両親と共に優れた映画を見て育った(そのように意図して見せられていた)という、当代きってのおマセさんで、当然のように、息子さんも同じようにお育て遊ばしたようで。親子でもって、映画に対する造詣が深い。しかも息子氏は、ハリウッドでしばらく働いていたという業界人でもあるから、スクリーンの裏側にも詳しい。
その二人が、スピードと血しぶきと音量による「刺激」あふれる最新の映画なんぞを語るわけもなく。(笑) 人間味をよくよく映し出す類の掘り出し物の方をメインに会話をしている。(どこぞの連載記事のおまとめらしい。)
しかし。どうにも、ぎこちない印象。
当然、日本語で喋っているわけではないので、訳の問題もあるのかもしれないのだが。
バリバリに切れる老齢の母親と、感性は鋭い息子(残念ながら失業中)の会話というのは、こういう硬さを含むものなのかもしれなあ、とも思うのだが。やはり、硬さの質が、ちょっと違うようだ。
塩野先生に向かって、人間をどう描くか、どう・どれだけ描けているかを語るなんて、そんな恐れ多いことをできるのは、息子氏だけではなかろうか・・・ということは判る。(笑)
私は、映画には疎く、実の所、ほとんど見ない門外漢なのだが、その私にとっても、映像でしか描けない人間味があるというのはわかる。だから、彼らの話は、私にも想像はつく程度の距離感ではあったのだが、実際の所、惹かれるというより、感心するのがせいぜいだった。
何に感心したのか。
この人たちは、映画が好きなのだ。
もう少しちゃんと言うと、映像で人間を描くこと、つまり、映像で人間を描こうとしている人の頭の中に、興味が尽きない人たちなのである。
何せ、その昔、生前の黒澤監督の家に遊びに行っていたという親子でもあり、古今東西・新旧の名作をあまねく取り上げていて。私が自分で見たことのある映画に関しては「そんな見方もあるのか」、見たことのない作品には「そんな映画もあるのか」と、ど素人の私も、それなりに楽しんだ。
本の造りも、活字が大きい会話文だから、密度が低くて読みやすい。息抜きにはもってこいだろう。
私も、いくつか興味が湧いた作品をピックアップしておいて、見てみようと思ったのだが。それは、やめにした。
それでは、単なる広告として読んでいることになり、本書の主題に反する。
また、私にしても、単純に広告に引っかかるだけの人間に成り下がるようなのも、ぞっとしませんのでね。
Amazonはこちら
ローマで語る 単行本
文庫もございます。
ローマで語る (集英社文庫)
以下、ついでに挙げておく。
塩野先生の著になる絵本である。
コンスタンティノープルの渡し守
旧版はこちら。
コンスタンティノープルの渡し守 (1980年)
漁夫マルコの見た夢
旧版はこちら。
漁夫マルコの見た夢 (1979年)
どちらも、簡単なストーリーに、エキゾチックな挿絵で構成された、大人向きの絵本である。子供に読んでやれる類の内容ではない。大人が息抜きのために眺める用途に適するだろうが、それにしても、少々軽すぎる分量ではある。
両方とも、随分古くに出版されて、再販されて今に至るらしい。
内容からすると、「コンスタンティノープルの陥落」や、「海の都の物語」の辺りをお書きになったのと、同時期の作であるように察せられる。
ちなみにだが、「海の都の物語」は私のお気に入りの一つだ。デキる男が突っ走る、先生のオハコのパターンとは一線を画した、組織論が光っている。ヴェネツィアは、「通商で繁栄した小さな島国」であり、あやかるべき示唆も多いように感じる。今や文庫もあるので。お勧めである。
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