バイク読書中 「Vespa style in motion」 #092012/10/14 05:40

Vespa: Style in Motion


1946年。Vespaがプロダクションとして始動する。

まず、パテントだ。あらかじめ、アイデアをパテントでおさえておく。事業の基本である。
モノコックのボディや、エンジンの冷却方法(強制空冷)などの基本構成を一通り、特許として登録している。でも、「・・・の構成が、乗り手の快適とエレガンスさをもたらす・・・」といったるるとした作文は、いささか流暢過ぎたようで、エレガンスは特許にならない、のようなツッコミが当局からあったらしいが。(法的に、工業製品として製造できるものしか特許にならない由。)

次に、発表会である。
海外の報道陣を招いての式典は、Rome Golf Club にて豪奢に行われた。(エレガンスさをかもし出そうとするなら、こういった配慮も必要なのだ。) 評判はおおむね好評で、この小さな薄緑色の乗り物は好意的に受け取られ、そのように各国に紹介されたらしい。
この会を仕切ったのは、Enrico Piaggio の知己であるUmberto Barnato。彼はこの後、Vespa Club のオーガナイズに携わることになる。(広報のブレイン、ということらしい。)

発表が済んだら、販売だ。
民生品を扱っていなかったPiaggioは、Vespaの販売チャンネルを持っていない。Enrico は、販売専門の子会社を立ち上げて、まずクルマのディーラーに営業をかけた。そうして、高級車の代名詞であるLanciaのショールームで、その傍らに置かせてもらうことに成功する。堂々たるLancia の横に鎮座ましますVespa 98というのも、ほほえましい情景だったと思う。Vespaはスタイルも良かったから、エレガントさでは負けていなかったかもしれない。

この辺りの、立ち上げの様子を見ていると、Enrico Piaggio が、ブランドイメージの大切さを、十分に意識していたことが感じられる。

さて。
肝心の、売れ行きの方はどうだったか。

初めに作られたVespaは、50台ほどだったらしい。最初の48台はすんなり売れたが、残りの2台はなかなか売れずに、ずっと工場に残っていたそうだ。工場の生産管理者だったDr. Pivaは、かわいそうなEnrico Piaggio、彼に、この残りの2台を手渡しに行こう、もうコイツらは、二度と作られることはないだろう・・・などと話していたそうだが。そうこうするうちに、注文が、ひっきりなしに入りはじめる。
生産規模を拡大するにも、まだ停電が多かったり、原材料の入手も不安定な時世だ。目標達成には、日々ミラクルが必要だった、とある。戦後の不景気の真っ只中で、労働者の確保には事欠かなかったことだけが救いか。

出荷台数が増えれば、サポートも必要になる。技術サポート網の立ち上げと、技術者(整備士)の養成が、同時進行で行われる。

無論、開発陣は、「次の車種」の開発に着手している。
もっと余裕があって、しゃんとしていて、乗りでがあって、売れる機体。そんなのが、何種類か・・・(中には、かなり意表をつくものまで)、D'Ascanioの製図版の上で、姿を現している。

そうして、工場の外では、続々と送り出されたVespaたちが、イタリア半島のみならず、ヨーロッパ全体を侵食し始めていた。

・・・と、これが、Vespa初陣、一年目の風景だ。



本書のキャプションいわく、Vespaは、女性も意識したプロモーションをしていたが、一方で、こういうスーツを着ているような(社会的地位の)男性に受け入れられたのも大きかった、と。
確かに、エンジン丸出しでチェーン駆動の普通のモーターサイクルに、スーツで乗るには勇気が要る。でもVespaなら、足として便利な上に、このように、見た目もさまになる。
やはり、この「人が乗った時にしっくりと収まる、エレガントなスタイリング」は、特許ものだった。これが、Vespaをただの実用車から一線を隔す存在に押し上げる、大きな要因になったと思う。


コメント

_ moped ― 2012/10/14 07:32

まいどです。
だんだん、スクーター然としてきましたね。

>本書のキャプションいわく、Vespaは、女性も意識したプロモーションをしていたが、一方で、こういうスーツのおじさんたちにも受け入れられたのが大きかった、と。

スクーターは、前傾姿勢を強いない乗車姿勢で、
かつステップインできるので、
確かにスーツおじさんにも受け入れられるでしょうね。
カブの営業マンを思い出しました。

_ ombra ― 2012/10/20 06:33

まいどでーす。

この「スーツのオジサン」の話は、着てる物に気を使わなくて済む、というだけの意味ではなくて、スーツを着ているような(階級の)皆様にも受け入れられた、という例えのようです。

今流に言うと(多少下衆になりますが)、ハイソとか、セレブな感じ、となりましょうか。

実用車って、大概はコテンパンに使えて便利な一方、イマイチ垢抜けてなかったり、カッコ悪かったりするもんですが。(カブがそうだと言っているわけでは・・・いや、言っているかな。笑) Vespaは、その辺のブランディングも巧かったと。

デザインにも凝ってて見た目もカッコよかったし、売り方もランチャの横に並べてハイソな感じをかもし出したり、と。

そういった辺りの底堅さが、後々の強さにつながっていったように思うわけです。

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