バイクの本 The Upper Half of the Motorcycle その22013/07/28 05:05





走り慣れた、空いているワインディングを、いつものように快調に飛ばしているだけのこのライダーは、見方によっては、不運なアクシデントの被害者にも思える。

しかし、下の図と並べると、「目先の危険を感知できない、お間抜けな例」、ということで、「程度問題」と言えなくもない。


はたして、これは、乗り手の判断力の問題なのだろうか。
それとも、誰にもありがちな、ただの不注意なのか。

原因は、経験不足か。
それとも、別の、もっと根源的なものか。

著者は、人間というのはそもそも、バイクに乗るようにはできていない、と言っている。

人間の身体能力を調べると、大体は身の丈の程度、手の届く長さ、目が届く範囲、走れるスピード、登れる高さ、その程度だと。

例えば、数メートルの高さから下を見ると怖さを感じるが、上空を飛んでいる飛行機から下を見ても怖くない。「意味が分からない」のだ。

だから、バイクで走る数十km/hが「どういった程度」なのか、人間は、正しく認識できない。

人間の認識は、脆弱なのだ。

だいたい、目で見ている(認識している)ものというのは、実際に視界に入るものの、ほんの一部だけだ。歩いていても、すれ違う人の顔を全て認識しているわけじゃないだろう。不思議と、美人とヤクザはよく見えたりするのだが。それ以外は、ただ通り過ぎるだけだ。

何をどう認識するかは、経験や知識に左右される。
でも、経験や知識を、常に、全てを、動員しているわけでもない。

人間本来の能力を超えるスピードで移動すると(バイクに乗っている時とか)、視界に入る情報が、処理可能な量を越える。すると、脳は、適当に処理を端折り始める。いつも通りの道、いつも通りの流れ。そんな風に、都合よく思いたがる。(経験が邪魔をする。)

自分が被害者になる事態には気をつけるのに、飛び出して来た子供をひき殺す事態は、あまり想定しない。(無意識に、身勝手に、優先度を判断する。)

バイクで、クルマと一緒に流れているとしよう。車列の数台前で、誰かが踏んだブレーキが、次々と後に伝播するうちに余裕がなくなり、数台後ろでは急ブレーキなる。(いわゆる「玉突き」。) 目の前のクルマがそうなった時、ブレーキングが難しく制動距離も長いバイクは、致命的な結果を招きかねない。でも、例え、そういったバイクの危険性を、知識として知っていたとしても、その分、車間距離をキッチリ保っているとは限らない。(知識が役に立たない。)

確かに、数台前のクルマに潜む、潜在的な危険の予知なんかには、経験がものを言う。現に、経験の長いライダーの走りは一味違うし、だから、こうやって本なんか読んでるより、良質なスクールに行った方が、上手くなるには早道だ。

しかし、実際に死にそうな目に遭う経験というのは本当に貴重なのに(生きてれば、だが)、そこから何かを学ぶとは限らない。バイクの事故から「生還」しても、まだ乗り続けるどころか、同じようなコケ方を繰り返す例もある。

そういった、人間の認識の様式を、著者は、mesocosm に例えている。

メソコスムとは、調べたところ、各種の実験に供するため、自然環境の一部を切り取ったもの、らしい。

人間は、自分の周りの環境の一部を、脳の中に複製している。ある意味、「周囲環境の模型」のようなものなのだが、それは、彼の「認識世界」そのものでもある。

この「模型」は、人の一生でも変化するし、もっと大きなスパン、例えば、時代でも変わる。中世では、平面状の地べたの周りを太陽や星が回っていて(神様が回していて)、そこいら中に、妖精やら悪魔なんかが隠れていたのだ。


今や、我々の「模型」は、そこからはだいぶ、もっともらしいものになったようだが、きっと今でも、変化の途中だ。(個人的には、この模型をそれだけで取り出すことができたら、寝てるときに見る「夢」、あれに似ているんじゃなかろうか、と思っている。結構しょぼいし、矛盾も多い。)

話を戻すと、人間の認識は、自分が思っている程、ちゃんとしていない。
ぶっちゃけ、分かっていないことも、わかってない。

そんな連中が、交通システムを成して、カッ飛んでいる。
(自分があてにならないだけでなく、あてにならない連中に囲まれてもいる。)

さらに問題なことに、その脆弱な認識は、行動をも決定してしまう。

そして、話が「行動」に移ると、また別の、人間の裏に潜む不思議が、絡んでくる。

だって・・・
そも、バイクに乗れないはずの人間が、何で、乗れてるんだ?。




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