バイクの上半分 212013/12/29 08:24



「インテグレート」について、もう少し掘り下げてみる。

自己の境界を外側に膨張させた状態。
その「自己」の中に、(バイクを含む)道具が共に含まれて、有機的に機能している状態。
人車一体。

「人馬一体」状態の乗馬は、傍から見ていてもわかるし、危なげないどころか、心地よくさえ感じる。
それと同じことが、いろんな形で起きうる。
人間が、「乗せられている荷物」から、「系の構成要素」になった状態。

しかし、インテグレート状態というのは、実は、さほど安定なものではない。

長いブランクの後でバイクに乗ると(冬ごもりの後とか)、妙な違和感を感じることがある。何となく、まるで始めて乗るような、よそよそしい感じがするものだが、乗っているうちにすぐに慣れて(思い出して)、以前のように、自然に乗れるようになる。(インテグレートが起動するのに時間がかかる。)

インテグレートが「解かれる」場合もある。
例えば、長距離レースなどで事故が集中するポイントを解析すると、「休憩」と強い関連を持つ場合があるそうだ。休んで緊張が解かれると、インテグレートも切れるのだと。
(でかい事故は家の近くが多いの法則も、同じ原理かもしれない。)
そして、肉体的な疲れなども影響して、断絶の後、インテグレーションが起動するまでの、時間が延びる場合もある。
だから、大事な場面の前には、インテグレーションになるべく早く入るように、という意味で、少し早めに乗るなり走るなりしておくこと(ウオーミングアップ)も大切、なのだそうだ。

同様に、マシンのポジションのセッティングも、単なる快適性というだけでなく、より深くマシンと統合するために大切なファクターなので留意すべし、とある。

マシンとの同化は、その外側の、環境との影響も深める。
「予測というより予知に近い予感」などは、よく見られる例だと。
(といったことは、実は人間以外の動物でも見られることで、例えば、ひょいと立ち上がっただけなのに、散歩に行くことを察知して、犬が歓喜しだす例などが挙がっている。)

インテグレートは、「上達」とも密接に関係している。
練習を続けるうちに、細切れだった「潜在意識の動作プロ」が整合、調和して、一連の動作として一つになる瞬間があるのだが、外から見ると、「いきなりうまくなった」となる。
(逆に、練習しているのに上達しない「踊り場状態」は、この統合が上手くできていない場合があるので、少し視点を変えた練習が功を奏する場合があるとも。)

インテグレートは、「潜在意識の動作プログラム」で行われる。
潜在プロでしかできないものだし(現象)、潜在プロで行われるものをインテグレートと言うのだ(定義)。

インテグレートは、様々な効果がある。
単純に、身体能力やパフォーマンスが上がるという効果が顕著だが、「疲れない」という効果もあると。(「自動」なので、疲れないのだ。)
初めての道は、緊張のせいか疲れるし、長く感じるものだが、慣れるに従って「いつの間にか過ぎている」感じになるものだ。(二度目の道は短いの法則。)

反面、インテグレーションの深度が増す(やりすぎる?)につれ、潜在プロが前面に出て支配度を強め、意識の方が脇に追いやられる。一種のトランス状態、入眠前の意識混濁の状態と同じようになる場合がある。(返事もしない状態。)

耐久レースや、長距離トラックドライバーにはよく見られるそうだが(疲れないので便利)、バイクのスプリントレースでも、競り合いがない状態(トップをブッチ切りとか)では起こるそうだし、それ以外の、いろんなスポーツや、一定の動作の反復を伴う職業などでも見られると。

注意力は一点集中で、頭脳は(部分的に)明晰な状態を保っているのだが、怖いのは、これが解かれる瞬間が、いつ来るかわからないことだ。
肉体的に疲れたりしていると、この「乖離」が急激に起こりがちだと。
ハーモニクスが突然失われて、「あっ!」となる瞬間だ。

傍から見ていると、「居眠り運転」に見えてしまう状態なのだが、ちゃんと状況を観測すると、目を閉じたり、舟を漕いだりという状態が来る、遥か以前に起こるのだそうだ。
その証拠に、「昼でも起こる」、だから余計怖い、とある。
(徹夜明けは乗れていると感じるの法則、だろうか。)

インテグレーションとしては、さらに行き過ぎた感じの、別の形態もある。
フロー(流出?)などと言われるそうだが、一種の恍惚状態だ。
特定の作業を継続するような状態において、一切の危険を感じなくなり、環境との融和を強く意識すると共に、幸福感、満足感に満たされる。
長時間スポーツや、芸術活動などでも良く見られるそうだが、バイクの場合は、いわゆるライダーズハイだろうか。
脳科学的には、(脳内麻薬と言われていた)エンドルフィンと関連するとも。

パフォーマンス(フィシカル)や、満足感(メンタル)の両面で、理想や目標ともされがちな状態だが、これまた、いろんな意味で当てにできない。

まず、どうしたら起きるのか、よくわかっていない。
こうしたら起きる、という必要条件はある程度わかるのだが、それを全て揃えても、起こるかどうかは当たるも八卦だと。
要は、コントロールできない状態なので、天使でもあり、悪魔でもあると。
(天使か悪魔かは、見る側の立場による。敵の天使は味方の悪魔。)
まして、当てにしたり、何か(命とか)を任せるわけには行かないだろうと。

#####

さて。
以上で、大体、全体の2/3を読んだのだが、結局のところ、「意識しないといけないけど、意識しすぎちゃいけない」のような、じゃあどうしたらいいのよ的な話が多いようにも思う。

次は、(やっと)その辺りの具体論に移って行くらしい。


Amazonはこちら
The Upper Half of the Motorcycle: On the Unity of Rider and Machine

コメント

_ moped ― 2013/12/31 15:24

まいどです。

「インテグレート」は、適した言葉です。
「統合化」と訳すことがありますが、どうもこれは腑に落ちず、どちらかといえば、異なる2つ以上のものが有機的に連携できている状態なので、「一体化」が良いと思ってます。

マンマシンインターフェースの一体化は、設計者の理想とするところです。
しかし、設計者がやりがちな誤りは、機械の性能のみを極めようとすることで、本来やらなくてはならないのは、操作する人間を研究すべきなのかも知れません。もともと自力だけでは、40kmh以上で走れないのですから・・・。

本年も、書評を楽しませて、いただきました。
来年もぼちぼちで、よろしくお願いします。

_ ombra ― 2014/01/01 07:12

謹賀新年です。
昨年はお世話になりました。
今年もよろしくお願いいたします。

インテグレートですが、「一緒になっている」感じは訳せるものの、「違うものに変化している」感じが同時には表せなくて、適当に訳してしまっています。

設計者のお話は、その通りですね。乗り物に限らず、使う人間のことを考えていないんじゃないか、と感じる例は今でも少なくないですし、いわゆる老舗の中には、いまだにその点で優れるものもあるようです。

そういう「ホンモノ」を見極めて、使いこなすというのは、本書によると、使い手の能力も必須と言うことになりましょうか。

本書はなかなか示唆的で、実例も多く納得の内容なのですが。いかんせん、ちとクドイ。(笑)
そろそろ話がこなれてくるかと思いますので、もう少々お付き合いください。

コメントをどうぞ

※メールアドレスとURLの入力は必須ではありません。 入力されたメールアドレスは記事に反映されず、ブログの管理者のみが参照できます。

※なお、送られたコメントはブログの管理者が確認するまで公開されません。

名前:
メールアドレス:
URL:
コメント:

トラックバック

このエントリのトラックバックURL: http://mcbooks.asablo.jp/blog/2013/12/29/7165556/tb

※なお、送られたトラックバックはブログの管理者が確認するまで公開されません。