◆ (単行本) 国家と実存 「ユダヤ人国家」の彼方へ ― 2024/03/27 15:29
著者は「在野の探求者」とのことで、本書も、研究や論文という趣ではない。「自分の思考をまとめてみた」類の、いわば随筆である。
前著を多数お持ちで、本書でも、まずはそれらを列挙して、内容を整理し、本書の思考にどうつながるのか要点を抽出している。それだけで、本書の前半を超える量を占めている。
本書だが、アイデンティティ、つまり、自分が自分をどう規定しているのか、それが思想や思考にどう影響しているのか、述べた本と言えると思う。
各種のアイデンティティの支柱となりうるもの中で、属するグループに関するものに焦点を当てている。日本人、アジア人、白人、キリスト人、など、その受け手となるグループは、国家に関するものが多いものの、実情はそれに限られない。民族や人種、地域や宗教、主義主張など、もろもろの特性が母体でありうる。
ところが、その母体自体の境界が不明瞭だったり、変化を続けていたりすることは少なくない。結果、アイデンティティ自体があやふやという例が多い。例えば、アジア人と言った場合、アジアが何を指すのかは人と場合によって変わる。結果、私の言うアジア人と、アナタが思うアジア人はまるで違う、ということが普通に起こる。
そういった、アイデンティティの母体となっているものを、著者は、整理し、各々の特性をまとめ、その影響度合いを思考している。
そこにイスラエルだ。
ユダヤ人とは誰か。その母体は「民族」だが、それを支える旧約聖書が対象としてたものと、現在ではまるで違ったものになっている。今や地域的に広く分布するに至ったユダヤ人は、その各々が別の背景を持っている。
それではイカン、ユダヤ人としてのアイデンティティを統一しようということで、ユダヤ人国家の樹立と並行して、同種の試みが、これまた様々な事情を経つつ、先の大戦以降に活発化したのは、ご存じの通りだ。
しかし、イスラエル、という国家の枠を作ったとはいえ、内部は決して一枚岩ではない。各種の急進派から穏健派まで雑多なグループが、軋轢や矛盾、誤解と共に活動している。
イスラエルの独自性は、アイデンティティの母体となる集団を自ら作り出してきたという点にある。
本書の題名にある「実存」だが、著者は、そのものが持つ他では代替不可能な特性、と規定している。例えば「日本人」なら、「日本」が持つ独自性、具体的には、領土(国境)、民族、言語(日本語)、気質、(日本的な)思想など、様々な物を含んでいる。そして、「日本人」とは、それらを共有する者、という意味を持つ。
母体の実存を、共有は無論、更新し続けた点で、イスラエルは独特だ。本書では、そこに重心を置きつつ、アイデンティティのあり様を、広く見回している。
私の読解力からして、本書に記された著者の思考を、充分に理解できたとは思えない。しかし、それは大変に興味深かった。
正直、あらゆる読者層に広範にアピールする類のものではないと思うが、イスラエルという国を理解しようとする場合は無論、自己規定のあり様に興味をお持ちの向きには、有用かと考える。
今やイスラエルは、軍事紛争の真っただ中にある。そこでの、行き過ぎとも思える強硬姿勢には、非難の声も小さくない。この国を理解したい、と考えるようになった向きは多かろうし、その意味で、本書は実にタイムリーだ。そういった人々も含めて、広くおススメできる本と思う。
Amazonはこちら
国家と実存;「ユダヤ人国家」の彼方へ 単行本(ソフトカバー) – 2022/2/3
前著を多数お持ちで、本書でも、まずはそれらを列挙して、内容を整理し、本書の思考にどうつながるのか要点を抽出している。それだけで、本書の前半を超える量を占めている。
本書だが、アイデンティティ、つまり、自分が自分をどう規定しているのか、それが思想や思考にどう影響しているのか、述べた本と言えると思う。
各種のアイデンティティの支柱となりうるもの中で、属するグループに関するものに焦点を当てている。日本人、アジア人、白人、キリスト人、など、その受け手となるグループは、国家に関するものが多いものの、実情はそれに限られない。民族や人種、地域や宗教、主義主張など、もろもろの特性が母体でありうる。
ところが、その母体自体の境界が不明瞭だったり、変化を続けていたりすることは少なくない。結果、アイデンティティ自体があやふやという例が多い。例えば、アジア人と言った場合、アジアが何を指すのかは人と場合によって変わる。結果、私の言うアジア人と、アナタが思うアジア人はまるで違う、ということが普通に起こる。
そういった、アイデンティティの母体となっているものを、著者は、整理し、各々の特性をまとめ、その影響度合いを思考している。
そこにイスラエルだ。
ユダヤ人とは誰か。その母体は「民族」だが、それを支える旧約聖書が対象としてたものと、現在ではまるで違ったものになっている。今や地域的に広く分布するに至ったユダヤ人は、その各々が別の背景を持っている。
それではイカン、ユダヤ人としてのアイデンティティを統一しようということで、ユダヤ人国家の樹立と並行して、同種の試みが、これまた様々な事情を経つつ、先の大戦以降に活発化したのは、ご存じの通りだ。
しかし、イスラエル、という国家の枠を作ったとはいえ、内部は決して一枚岩ではない。各種の急進派から穏健派まで雑多なグループが、軋轢や矛盾、誤解と共に活動している。
イスラエルの独自性は、アイデンティティの母体となる集団を自ら作り出してきたという点にある。
本書の題名にある「実存」だが、著者は、そのものが持つ他では代替不可能な特性、と規定している。例えば「日本人」なら、「日本」が持つ独自性、具体的には、領土(国境)、民族、言語(日本語)、気質、(日本的な)思想など、様々な物を含んでいる。そして、「日本人」とは、それらを共有する者、という意味を持つ。
母体の実存を、共有は無論、更新し続けた点で、イスラエルは独特だ。本書では、そこに重心を置きつつ、アイデンティティのあり様を、広く見回している。
私の読解力からして、本書に記された著者の思考を、充分に理解できたとは思えない。しかし、それは大変に興味深かった。
正直、あらゆる読者層に広範にアピールする類のものではないと思うが、イスラエルという国を理解しようとする場合は無論、自己規定のあり様に興味をお持ちの向きには、有用かと考える。
今やイスラエルは、軍事紛争の真っただ中にある。そこでの、行き過ぎとも思える強硬姿勢には、非難の声も小さくない。この国を理解したい、と考えるようになった向きは多かろうし、その意味で、本書は実にタイムリーだ。そういった人々も含めて、広くおススメできる本と思う。
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