◆ (電子本) 原付ライダー青春グラフィティ: 2スト原付バイク文化が輝いた愛しき70年代2023/10/18 08:23

Amazon Kindle の電子書籍である。

とあるバイク愛好家が、過去に乗ったバイクの印象や、バイクに乗ることで得られること、その意義などについて、あれこれと記している。

1950年代半ばの生まれと思しき著者は、60年代の日本製バイクの黎明期から、70年代の混乱期(暴走族や3ない運動)、80年代バイクブームの爛熟期、その後の熟成/下降期を、一通り経験された世代に当たる。

日常レベルで楽しめる、身近なバイクを考えた時、小さく軽い原付が、やはり最右翼になる。運転もラクだし、昔は2ストでパワーも結構あったから、ラクなだけの乗り物を超えて、運転そのものも楽しめた。

これが、同じ車体にちょいと大きいエンジンが載る、イエロー(80㏄)やピンク(90~125cc)のクラスとなれば、楽しさも倍増だ。

昔は、飛ばしている原付はまだ寛容な目で見てもらえていたし、構造簡単なバイクは自分でいじるメカの勉強にもうってつけで、ボアアップキットなどの「教材」も、潤沢に供給があった(品質はピンキリだったが)。

この当時の原付は、入門用としての通過儀礼を超えた役割を果たしていた。誰もが通る道であり、だからこそ、ことのほか強い印象を、皆に残していた。

著者が、書名に「原付」を挙げているのは、その辺りの事情の反映だ。

原付以降の著者のバイク歴は、ある意味「日本最強のツーリングバイク」だったTDR250から、中年・子育て期の低迷を経て、往年の原付2種ビジネスバイク(やはり2stだったりする)による、まったりツーリングの辺りに、回帰・収れんしている。この世代のバイク歴としては、よくあるタイプかと思う。

この本、内容は何ということもない、ただのオッサンの昔語りなのだが。あえてここに取り上げたのは、この著者の言う「青春グラフィティ」が、バイクという乗り物そのものの青春時代と、重なっているように思えたからだ。

世界を席巻するに至る日本のバイクが、生まれ、育ち、成長、熟成し、ピークアウトして、行き詰まる。その様を人間に準えると、この著者の経験に、ほとんど重なるように感じられた。

逆に言うと、バイクという乗り物が提供できていた楽しみというのは、この著者の経験談に、ほぼ集約されているのではないかと。

  最初に乗るものであり、
  最後に戻ってくるもの。

  最初であり、最後。
  つまり、全てだ。

内燃機の良さを、気軽に楽しめた時代。
軽く小さく、気負いの要らない車体。
ピーキーだが、扱い切れるパワー感。
いろいろ選べるラインナップ。身近に置けるプライス。
実際に乗ってみれば、立ち上がる臨場感と、緊張感。

「ああ、生き返る」
あの感触。

バイクに優越感は似合わない。
(それが欲しければ四輪に行けばよい。)

他人に比べてどうこうではなく、純粋に自分自身の楽しみとして、身近に置きたいと願う道具。

実際、今も、世界規模の業界としてのバイクを支えているのも、ここの市場なのだ。

その「裾野」が無くなってしまった日本の市場は、やはり、いびつなのだろう。

今、バイクメーカーのラインナップを見直しても、このクラスの選択肢は、ほぼスクーターばかりで。昔のような幅はない。
昔は、オフ車からアメリカンから、それこそ無数のタイプがあった。

広くて緩やかな裾野のどこからでも、入り、登れた時代を、懐かしく思い出す。

あの情景は、もう再生しえないのかと。
漠然とした寂しさを、改めて感じる。


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