読書ログ 「江戸っ子は虫歯知らず?」 ― 2012/10/27 05:39
著者は江戸時代の文化に詳しく、同様の本を何冊か著している。
題名から想像がつく通り、生活の断片から当時の人々の暮らしぶりを紹介している。
堅苦しい文化史論とは対極にある本である。
いくつか興味深かった点を挙げると、
・当時の人は、花や緑を愛した。魚をよく食べたが、その鮮度は
流通に携わる人々の健脚でまかなわれていた。
・当時の識字率は、世界随一だった。庶民でも、女性や子供まで、
よく本を読んだ。
・教育のレベルは高かったが、教育に関して幕府の規制や制度は
一切なく、教育制度は、ほぼ庶民の自前でまかなわれていた。
・一人あたまのアルコール消費量を見積もると、今より多い。
・昔から旅行が好きで、かなり安く回れる仕組みができていた。
自然が豊かで温泉も多い国土ゆえ、見所もたくさんあった。
よく、時代劇で、お城の中の正装として、お侍が長いすそを引きずって歩くシーンがあるが、私が子供の頃、城下町のおばあさんが、あの裾は穴だらけで見苦しかったんだよ、と語っていた。おばあさんが子供のころ、実物が家に残っていて、それを見たことがあるとのことだったが。この本によると、江戸の町では、女性も(裕福なら)長い着物をゆるりと着て楽しんでいたらしい。外出時は腰のあたりでたくし上げて結んだそうだ。
ふーん。
といった具合で、おじいさん世代である著者の世間話に耳を傾ける風情で、気楽に、楽しく読める。
それら、「当時の人々はこうだった」と断じる論拠となっているのは、当時の書物と挿絵だ。
一般に、庶民の日常生活での暮らしぶりと言うのは、なかなか記録に残らない。当時の人にとって、それはだた、普通にありふれた光景であり、わざわざ記録しようとは思わないのだ。
著者は、そこを、当時の書物の挿絵の断片を集めて、推測→断定へと判断を強める。いわゆる通説や常識にとらわれない、独自の判断でもって楽しませてくれる。
しかし、その妥当性には、しばしば疑問を覚える。そも挿絵が本当を描いたのか?から、現代の目で見た当時の挿絵の「解釈」が妥当なのか?まで、突っ込みどころが満載だ。
まあ、そういう厳密なのがお好きな方は、堅苦しい文化史論の方を参照すべきなのだろう。
著者が判断に用いた挿絵そのものも、ふんだんに転載されているので、読者が自分で解釈を加えながら、理解を深めるのも一興と思う。
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江戸っ子は虫歯しらず?<江戸文化絵解き帳><江戸文化絵解き帳>
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