バイクの話は少しだけ 「名作・迷作エンジン図鑑」 ― 2013/10/06 05:01
この所、ボチボチ絶版の復刻をしているグランプリ出版だが、これは復刻ではなくて、新刊のようだ。
何でも、どこぞの会社の社報に連載していた記事をまとめたのだそうだ。取り上げられているエンジンの数々は、この業界に一家言ある向きも唸らせる、至福のラインナップである。(笑)
著者は、日野自動車で長く開発の現場にいらした方で、大型エンジンの技術について、肌どころか、血で知っていると言えるほど、深い造詣をお持ちの人物だ。しかも、単に現場だけでなく、エンジン開発の歴史についても、大変にお詳しい。
何せ、古今の論文や特許などの文献を自分であたり、実際に世界各国に出かけて、辺境の博物館の片隅に打ち捨てられた古のエンジンの実物に触れ、その細部を検分し、当時の開発者の意図を思う。そうやって、溜め込んできた知識を独力で体系化し、今まで、誰が何を考え、誰に影響しマネをされ、どのように実現を図り、成功して失敗して、今に至るかを、網羅的に把握している。それを伝えるスキル(文章やイラスト)をお持ちという面でも、稀に見る「エンジンの語り部」である。
その辺にありがちな、スペック(数値)を並べただけの無機質な技術書や、伝説を集めただけのステレオタイプの「エンジン史」とは、一味も二味も違うのだ。
船舶用、自動車用、戦車用などの用途別に、著者の印象に残ったエンジンについて、オモテからウラから論じている。著者の古巣である日野自動車と、その前身のガス電に記述が偏りがちなのは、ご愛嬌である。
お話が技術面だけではなくて、昔はこうだった、開発とはこうやるものといった、著者ならではの経験談や訓示(?)も織り交ぜられ、お勉強然とする以前に、楽しく読めてしまうのは、著者の語り部としての力量である。
ちょっと、お値段的にはお高いような気もするが、このレアなニーズの一冊を、実際に出版することを考えると、妥当かもしれない。(グランプリ出版の仕事なのでね。)
なお、記述は大型のエンジンが主で、バイク用の小型エンジンは取り上げられていない。
残念だなあと思うのは、こういう書籍が、バイク界にはないことだ。
広範な叙事詩としての、ストーリーを語れる、技術屋や、開発者。
大体は、馬力とかボアストローク、バルタイなんかのスペックを並べて、当時の評判はこうだった、と適当な情報を並べて終わるような、通り一遍のカタログ的な編集本がほとんどだ。
他方、物語性を高めようとすると、いきなり「プロジェクトX」の世界に飛んでしまい、「愛と努力と根性の作り話」にワープしてしまう。
たまに、実情を吐露した本もないではないが、内容の方は、単に 腐っていることを暴露しただけ のレベルだったりする。
バイクは、乗り物業界の一番の端部だ。その最前線にいて、コストとパワーと耐久性の狭間で、それまでにない、新しいものを生み出そうと格闘した人々のリアルバトルとは、そんなものではなかったはずなのだが。
(しょうがないから、以前、 自分で書いてみた んだけど。本書のような、真のプロの仕事とは、実力の差が歴然だ。)
しかし今、最新の状況を鑑みると、バイクに限らず、エンジンは、冶金や電制の発展に伴って、大きく効率を上げてきた半面、技術的には頭打ちで、闇雲に新しいことにトライせずとも、モノは作れる時代になった。ある意味「行き詰まり」とも言えるのだが、ハイブリッドあたりの「横道」が、かえって、その進路を塞いだようにも見えている。
「内燃機」は、このまま、「電動機」に移行してしまうのだろうか?。
バイクのエンジンも?。
いや、それ以前に、昨今注目の「自動運転」なんかが台頭してきたら、バイクなんかは、生き残れないだろう。だって、バイクの生存の意義を決めている(と思しき)、Man-machine system が、抹殺されてしまうのだから。
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名作・迷作エンジン図鑑―その誕生と発展をたどる
だいぶ話がすっ飛んでしまったが。
もし、この著者を初めて読むのなら、文句無く、こちらをお勧めする。
「エンジンのロマン」
著者のエンジンに関する知識を、くまなく網羅しようとした力作である。
既に何回か改版を経ており、内容も熟成が進んでいる。
私は一旦、図書館で借りたのだが、これは読み飛ばせないと一瞬で悟り、とっとと返して自分で買った。(笑)
ここ何ヶ月か、ずーっと、つらつらと読んでいるのだが。
何せ、500頁という大著だし。しかも内容が濃いいので。
なっかなか進まない。
そのうち、本ブログでも、ちゃんと取り上げようと思っているが。
いつのことやら、わからないので。
自分で買ってください。(笑)
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エンジンのロマン―技術への限りない憧憬と挑戦
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