読書ログ 「帰れないヨッパライたちへ」 ― 2012/09/29 06:45
著者は、ずいぶん前に流行った流行歌の作詞などを手がけた人物で、同年代ならご存知の方も多いと思う。その後、本業の医者の道に戻り、精神科医として活躍されたらしい。その著者が、心理学的なアプローチで、現代日本の世相を分析した本である。
この世代で、芸能界でイッパツ屋を経験するというのは珍しかったろう。その経験を踏まえた何かを期待したのだが、空振りだった。
心理学的な論点としては、特に珍しくないと思う。世相の解析や解説としても真新しい点はなく、あまり、こういう本を知らない人が、まとめ的に読むなら、といった程度だろう。(そういう人に手に取ってもらうには、この著者を起用したというのは、いいパッケージかもしれない。)
心理学モノは久しぶりに読んだが。やっぱり違和感は大きかった。
「原因が見えない時は、一番、否定したい所に答えがあるはず」というアプローチは、論理として閉じていて、一見もっともらしいし、反論も難しくて(面倒)言いくるめられやすい。でも実は、検証が不可能(本当かどうか確かめるすべがない)という「汚い手」だと、私は思う。少なくとも、学問や科学ではない。
その証拠に、今や心理学は、「何となくもっともらしい論理の体系」を作っただけで既に落ちぶれ始めていて、例えば、変な事件を起こした犯人の動機の理屈づけを、後から適当にこなすくらいの役割くらいしか果たしていないように思う。(幼少時に虐待されたからですネエ、のような。虐待の経験をお持ちでも真っ当に暮らす人はたくさんいるのに:理由になってない。無論、事件を起こしていいことにもならない。)
ところで、この所、新書の出版の量はすごくて、大型書店の新書コーナーは、見上げてうんざりするほどのボリュームだ。ノイズも多くて、いい本に出会う確率は、かえって減っているように思う。(こうすれば売れるのような、企画優先にも見える。)もう少し真っ当に、いい本とは何か、何を読者に伝えたいのか、吟味して出さないと、結局、また廃れてしまうのではなかろうか。
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帰れないヨッパライたちへ―生きるための深層心理学 (NHK出版新書 384)
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