読書ログ 「アメリカを動かす思想─プラグマティズム入門」 ― 2012/12/15 08:34
プラグマティズム、実用主義などと訳されるが、簡単に要すると、実現できてなんぼ、現実にできるかを主眼に考える、というようなことらしい。本書は、その歴史と意義について、著者の見解を述べた本だ。
発祥の地というか、本家はアメリカ合衆国だそうだが、そちらでもずっと一枚岩で来ているわけではなく、歴史的に変容がある。それを追いつつ、その他のアメリカの主立った思想、デモクラシーやキャピタリズム、宗教、さらに、リベラルや保守といった政治思想まで絡めて、それらの根本としてプラグマティズムが息づいているとする。
論旨は、ちょっと粗い。曲解もあるし、普通それは繋がらないだろう的な強引な所、無理な展開もある。例えば、アメリカは開拓民の国で、常に厳しい現実に向かい合わざるを得なかったが故に「実際的な思考」が根付いた、とあるが。どうだろうか。貧しかった当時、現実に向かわなければならなかったのは、アメリカだけではないはずだが。
実際的なアメリカの思想に対置して、ヨーロッパの思想を、現実から浮いた純思考的なもの、頭の中で閉じた論理体系を追っているだけで役に立たないもの、と断じるのも、どうかと思う。
どんな思想でも、見落とし(全ての事象を把握、考慮できていない)もあれば、偏り(志向や意図)もある。だから、仮に、冷徹な実験のイメージで、AだからBだ、という結果が出たからといって、いつでも必ず、全ての人にとって、AがBかどうかは、別の話だ。逆に、現実にできたのは、頭の中で考え抜いた、緻密な体系がその前にあったからだ、という場合もあるだろう。実際性に過度にこだわることで、罠にはまることもある。
実際、ハードの生産性が持つ力をアジアに奪われた後、アメリカの力を再生したのは純思考的な産物であるソフトだったし、我々の生活を大きく変えたのも、昨今はハードではなく、ソフト的なものが大きい(物理的な能力はさして変わらないのに、何かできるような気がしている、考え方のほうが変わっている)というのも、見逃せないと思う。
というわけで、論旨に弱さが目につくので、筆者はプラグマティックな考え方が好きで、それが日本の閉塞感の打破に役立つと考えているようだが、その説得力のほうにも影を落としているのは残念だ。
もうちょっと現実を見つめて、それに即して、ちゃんとやろうよ、
しょうがねえなあ日本人は、また何もしないつもりか?と、いつまでも笑われていていいのか?
そういった筆者の苛立ちは、すごく共感できるのだが。
自分が、知らずプラグマティズムに過度に陥っているかどうかをチェックするのには、いい本かも知れない。
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アメリカを動かす思想─プラグマティズム入門 (講談社現代新書)
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