読書ログ 博士のエンジン手帖2 ― 2016/10/22 08:13
また「エンジンもの」だ。
これも、図書館で題名借りした。
なぜ「2」なのかというと、これしかなかったから。
前回のエンジンものと同様、雑誌(モーターファン・イラストレーテッド誌)の連載をおまとめした本のようで、市販の自家用車のエンジンを、技術的な知識と、個人的な価値観でもって評価する内容だ。著者も同じような経歴で、定年退職されたエンジニア、現在は技術コンサルとしてご活躍中とのことだ。
同じ路線とはいえ、だいぶ新しい2013年の刊行で、昔を思い出す必要はさほどないから、そこは違和感なく読める。記述の技術レベルはだいぶ下がっていて、専門用語の解説が入る程度で、数式なんかは出てこないから、ちょっとしたクルマ好きなら、ついて来れる程度のレベルだ。しかし、その分「個人的な感想や評価」の方が前面に出た感じで、解説書ではなく、ただの読み物として割り切った方がよさそうだ。本職のエンジニアは、対象読者ではない。
時代は、VWのTSI のようなダウンサイジングターボが他社にも普及した辺りで、それに似たエンジンは無論、ニュー・チンクエのツインエンジンとか、VW up!の3気筒エンジン、スバルBRZのボクサーなどの変り種(?)も含め、内外・大小含めて、いろいろと取り上げている。
著者のお好みは、低回転からトルクで引っ張る加速がラクな特性、スムーズ(振動や音などがおしなべて低レベル)で、燃費(エネルギー効率)がよいものということで、西欧のお手本(?)たるダウンサイジングターボがことのほかお気に入り。それに満たない、または外れるエンジンはよくないと、例えば、ターボとCVTの組合せはレスポンスが遅れるので良くないじゃろう、などとやっている。
要するに、著者の評価の軸は、日本のようにスピードアベレージが低くてゴー&ストップが多用される環境で使い易い実用車、ということのようで、西欧のようなハイスピードクルーズや、例えばフェラーリの音に象徴される官能性のような尺度は、一片も眼中にない。(なのに、全般的に輸入車の方が評価が高いから、やはり、ちょっとちぐはぐだ。)
スポーツカーのエンジンの理想は「無いこと」だ、とも言っている。(著者の趣味がグライダーで、その感覚のことを言っている。)どうも、重さや音など、走りに影響するあらゆる要素が小さい方がいい、という意味らしい。
この尺度で行くと、行き先は内燃エンジンではなく電気モーターしかないような気がするし、その通り、テスラは「評価がいい側」に入っていたりする。(テスラは、街中は威勢がいいが、高速ではただ重いだけ、という評も聞くのだが。そうはならないようだ。) なのだが、ご本人はあくまで内燃エンジンにこだわっていて、その主張である「技術的な考えの正しさ」がどこにあるのか、いまいちよく分からない。
個人的には、エンジンの楽しみって、実用域の使いやすさだけではなく、臨場感とか高揚感とか、別のものもあるだろうと思うのだが。著者はそうではないようだ。ニュアンスとしてはむしろ逆で、愛されるかどうかはどうでもよくて、ただ便利に消費してもらえる商品を標榜しているように見える。そういったものを、カイゼンの名の元に、繰り返し設計し直すことを是とする姿勢が、プロとして正しいのか、あるいはプロとして幸せなのか、私には分からない。
私は、低回転からツキがよく、高回転まで淀みなく回ってくれて、燃費も良くて耐久性もあるエンジンに触れられて、さらに、内燃機関のエンジンならではの燃焼感と高揚感も楽しめていたから、何をそんなに悩むやら?と思ってしまう。
まあ、私の場合、モノがバイクだから、クルマに比べてエンジンの負荷重量が小さいし、年式も古いのでエンジンはエミッションを完無視してるから、比較できるものではない、というのはわかる。たぶん、同じような理屈で、著者からもバッサリ切られて終りなんだろう。
(前回の本の著者もそうだったが、クルマを扱う技術者の中には、技術的な造詣に関らず、バイクを劣ったものとして蔑む方が少なくない。エンジニア同士でも、議論がかみ合わないこともままあるのだ。)
それに、私がこのバイクのエンジンを好ましく感じたのは、シャシ側の性能、ハンドリングやロードホールディング、トラクション特性などが優れており、エンジンの性能を安心して扱える下支えがあったことが大きい。つまり、エンジンの感触は、エンジンだけでは決まらない。クルマを全体で評価しないとエンジンの価値も見えてこないわけで、借りた車を少々乗り回して、エンジンの感触だけを取り出して云々する本書の内のは、論評としても、少々物足りない気がする。一般のクルマ好きの読者も、同じではなかろうか。
著者は、(特に国産の)エンジン技術が向上しない(進歩が遅い?)原因を、エンジニアに求める傾向もあるのだが。それは、違うのでは?・・・と言うお話は、また別の機会にしようと思う。(次回かも。)
そんなこんなで、本書の内容にイマイチ納得が行かなかった私は、この2巻目以外の前後の刊を、手に取る気にはならなかった。
クルマのエンジンそのものを論評するという形式は、前回の本と、よく似ているのだが、内実はそれ以上だったようで、本書の終章近くに、この著者が、前回の本の著者に師事した経験があり、そのレベルを目標としている、とあった。
前回の著者は技術的な詳細も書いてくれていて、もう少し読み応えもあったから、そのレベルを実現して欲しいとは思うのだが。きっとそれは、著者の都合では決まらないのだろうとも感じられた。(雑誌は売れるレベルの記事を望むし、メーカーは最新技術の詳細を公開したがらない由。)
単純に、エンジン技術を物語を楽しむなら、以前取り上げた、この辺の方が面白かったと思う。
「名作・迷作エンジン図鑑」― 2013/10/06
「エンジンのロマン」― 2014/12/21
Amazonはこちら
3冊出ているようだ。
博士のエンジン手帖―エンジンはほんまはこうなっとる!
博士のエンジン手帖2
モーターファン・イラストレーテッド特別編集 博士のエンジン手帖 3
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