ファシズムの教室 なぜ集団は暴走するのか ― 2020/10/17 05:51
刺激的なタイトルだが、無論、ファシズムの再興を企図した内容ではない。
「実体験によるファシズムの理解と克服」を意図した授業を行っていた大学の先生が、その事の成り行きを記した本だ。
先生の本業は歴史社会学で、なぜドイツ人がヒトラーを受け入れ、ファシズムが勃興するに至ったのか、そこにこだわって研究をされていると。
その通り、ことファシズムの本質に関しては、著者の思考は鋭く、説得力がある。
その知識を、授業を通して、実体験として生徒に伝えることを思いついたのには、とある前例を目にした故だと。
心理学の有名な実験として、「看守と囚人に分かれて役を演じるうちに看守が狂暴化していくもの」や、「電気ショックの拷問をエスカレートさせていく役人」といったロールプレイが知られているが、今回の直接のきっかけになったのは、「独裁制の体験を意図した授業で、高校生が過激化していく」という映画だったらしい。
その映画自体は、生徒が暴走して終わるという、救いようのないドキュメンタリーのようなものだったらしいのだが、これと同様の「百聞は一見に如かずアプローチ」を、著者は構想し始める。
まず、映画と同じようなオチに至ってはよろしくない。どうブレーキ(デブリーフィング)をかけるか。
次に、この手の活動には、誤解や揶揄が容易に予想されるので、これをどう避けるか。
件の映画の設定は西欧(原作は米国)なのだが、これを日本に即して変更する。文化的な背景や、彼是の教育の違い(生徒側のバックグラウンド)の違いなども考慮に入れた。
構想は良く練られていたし、数年にわたるPDCAの結果もあって、授業は好評を得たようだ。
だが、報道で取り上げられ、知名度が上がるにつれ、誤解や揶揄も増え続ける。
そして、とある地方議員からの「とにかく、あれは良くない、即刻止めろ」という圧力を受けるに至り、大学側が縮み上がってしまい、授業はあっさり中止に至る。
この議員の頭ごなしの圧力自体が、ある意味ファッショだと思うのだが。そう考えると、この授業がファッショにつぶされるのは、まあ必然であったということだろう。飯の種のネタばらしをされたら、たまらんからね。
更に言えば、我が国の為政者層で、ファシズムは、今でもちゃんとワークしている、という証左でもあるのだろう。
そういった、事の成り行きの説明というか愚痴のようなものが、ファシズムをめぐる我が国の実態を透かして見せてくれる所が、本書の背骨でもあるのだが。無論、白眉は、ファシズムがどういうもので、どのように起こるのかに関する、著者の知見だ。そこは十分に読むに値したと思う。
本書が記されたのは今年の2月で、コロナ禍が現出する前だ。コロナ禍で自粛圧力が強かった当時の、マスク自警団や、地方ナンバー刈りなどに関して、著者のコメントを聞いてみたい気がした。
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ファシズムの教室 なぜ集団は暴走するのか
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