読書ログ 繁栄からこぼれ落ちたもうひとつのアメリカ ― 2013/12/14 06:29
本屋の新刊コーナーで見かけた。
妙にキャッチーな表紙。
ダイヤモンド社。
怪しい。(笑)
図書館で借りられたので、一読してみた。
ごく真面目なルポだが、いろんな意味で、読後感は、あまり良くなかった。
内容としては、いつぞや私が書いたことと同じだ。
読書ログ これは誰の危機か、未来は誰のものか
これが、実際に起こっている。
そのことの証左。
自然は、平均に向かう。
水に落としたインクは、拡散して均一になる。
風は、圧力が高い方から低い方に吹く。
熱は、熱い方から冷たい方に伝わる。
そういう摂理になっている。
カネも同じで、例えば市場原理や、神の手などと言われるように、何かしら平均化していく摂理があるように言われがちだ。
だが違う。
カネは、何もしないと、自分で「集まる」。
無い所から、有る所に向かって、流れていく。
性質というより、そういう仕組みなのだ。
人間が作った仕組み。
だから、不自然だ。
自分のカネは、自分の自由だ。どんなに余っていようとも、他人に渡すいわれは無い。恵まれた人間だけが、何かをやる余裕がある。自分のために何かをやって、さらにもっと恵まれる。
自由の国では、特にそうだ。
何をやったって自由なんだから。
もともと、道徳や宗教くらいしか調整弁がなかったが。
それらもすっかり、弱体化してしまった。
もし、カネを平均化したいなら、それなりのやり方なり、仕組みが必要なのだ。それを怠ると、カネはどんどん一極化し、やがてシステムは、発散(破綻、崩壊)する。
だが、一挙には行かない。
カネの集まりは、たまに、アクシデントで部分的に崩落はするが、また同じプロセスを経て、結局は、元の形に戻っていく。
元の形とは、いわゆるピラミッド型だ。
貧乏な裾野は低く広く、裕福な頂点は小さく高い。
そういう形の群れを作る動物。
それが、人間にとってのネイチャーなのだ。
著者は、長期に渡って、その裾野の底辺の情景を、丹念に拾い続けている。
義務感とか正義感とか、そういったものではないようだ。確かに、著者自身、この分野のルポライターとして認識はされていて、繰り返し書く必要にも迫られている面はあるようだが、それ以前に、ただどうしても気になる、気がつくとそこに戻っている、とそんな感じだ。
底辺に落ちた人々が、どのように落ちたのか。
這い上がれないのは、どうしてなのか。
それが、一部の(合衆国の)右派が言いつのるように、彼らの努力や能力の不足によるものではなく、構造的なものであり、不可避であり、悪化していることを、著者は、繰り返し繰り返し、暴き出している。
それはそうだ。
ペダルを漕ぐ能力も意思もあるのに、ペダルが無いのは、彼らのせいではない。
まるで、ひどすぎる「看守と囚人ごっこ」のような現実。
ひどく不真面目で、無関心。
つまり、不誠実。
不誠実な、アメリカ。
ウォールストリートとか、ティーパーティーとか。
ただ、確かにペダルを漕ぐのを諦めてしまった人も居るし(皆が真面目ではない)、止むを得ないにせよ、法的によろしくない行為に及んでしまった場合は、非難を免れない。そういう事情が、まだらに混ざり合ってしまっているので、合衆国流の、シロクロの二つしかない「デジタル善悪二元論」がどうにもそぐわなくて、その酷すぎる現実の上を、無闇に空回りしている。それがまた辛い。
無論、恨み節ばかりではない。
著者は、未来への提言も行っている。
歴史を振り返り、かつて、大恐慌からの復活に役立った方策を掘り起こす。
役に立たなかったことの原因を考える。
底辺の人々と一緒に、静かに怒りながら。
諦めずに。
ただ、やはり少し弱い。
方策が無いことではなくて、やるべき側にやる気が無いことが、問題の本質だからだ。
もし、その原因が、人間の本質(上述のピラミッドの群れ)なのだとしたら、この、迷いまくっている不誠実な羊たちは、ちゃんとやっていけるものなのだろうか。
わが身の問題でもある。
地震だけでなく、竜巻や台風なんかが多いわが国だが、どうも最近は、そんな自然災害に苦しむ人々を、ろくすっぽ救いもせずに忘れることに慣れてしまったようにも見える。そんな我々は、同罪ではないか。
次の「ピラミッドの崩落」はすぐそこかもしれないし、巻き込まれるのは、自分かもしれないというのに。
私を含め、これを読んで、考えているだけ(つまり娯楽)の読者というのは、何なんだろうか。
ハラは減ったが、何となく、メシを食う気がしない。
そんな読後感だった。
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繁栄からこぼれ落ちたもうひとつのアメリカ―――果てしない貧困と闘う「ふつう」の人たちの30年の記録
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