◆ (単行本) 欲望の見つけ方 ― 2023/10/03 06:47
表紙カバーに大きく、
「人は皆、誰かの欲望を模倣する。」
まさにその通りの内容の本だ。
ルネ・ジラール という学者に師事した著者が、その思想を実際に即して解説している。
その骨子だが、
我々は普段、自分の意思で物事を決定していると考えており、当然、次に何を欲するかも、同様に考えている。
だが実際は、自分が属する群れの意図や、そのモデルとなっている特定の個人などの影響を大きく受けており、実質的に「ほぼ模倣」と言える行動を取っている。
それがどのようなメカニズムで発現し、どのような副次効果をもたらすのか、実際に即して考察する。
・・・といった感じだ。
そのメカニズムの詳細だが、理屈としては、あまり複雑なものではない。
齟齬を承知でかみ砕くと、
まず、隣人と比較して、自分には無いものを「ボクも」とばかりに欲しがるケースがある。これは、人間が持つ根元的な欲望の在り方であり、古代から繰り返し発現しているメカニズムだ。このタイプの欲望は、スムーズに達成できるとは限らない(例えば、欲しいものが「組織上のポスト」のような有限の物だったり、上司など第三者の評価が介在する場合は尚更)。また、上手くいかなかった場合は「争い」に簡単に転化してしまう危険なものでもある。
また、別の形態として「理想的なモデルとして想定されたものの模倣」もある(セレブの持ち物を欲しがる、など)。こちらは、(第三者の)誘導などの意図が介在している場合がほとんどであり(メーカーのステマや、権力者による強制や誘導など)、その管理の実力次第で功罪両面がありうる。(イノベーションになる場合もあれば、民衆圧迫・人権蹂躙になったり。)
グループの理想からの乖離や、事態を収めるための人柱といった意味で、「罪」や「スケープゴート」といった行動も、同じ文脈から説明できる。
外部からの影響による欲望の操作から脱却するには、欲望を操作するメカニズムの種類を意識し、自分がどのメカニズムで欲望を操作されているのかを自覚することで、今の自分の欲望の真偽や、重要度を冷静に判断することが肝要となる。
また、同じことを集団に対して働きかける(あなたが管理職だったら、上記に従った正しいフィードバックをチームに与える、といったような)ことで、グループ内での無用な争いを避け、グループ全体のポテンシャルを底上げしたり、より目的に適う形で、結果に貢献できる。
本書では、古今東西の文献を駆使して、それぞれの模倣の形態の具体的な事例が列挙・説明されている。
(本書のボリュームは、主にこの著者による例示と解説のクドさで造られている。)
また、そこからの脱却の方法も、具体的にケース分けして説明されている。(少々説得力に欠けるようで、あまり納得感は得られなかったが。)
・・・と、本書に倣って、小難しい説明をしてきたが。
自分の事を考えても、朝の通勤時に見かけた中華料理屋のメニューが気になって昼飯をラーメンにしたり、街中やテレビで見かけたカッコいいクルマに似た形や色のを自分でも欲しがったりとか、意図的に、または単に結果として、外部の情報に流されて次の行動を決めていることに関しては、身に覚えがある。
皆様にも、同じような「身に覚え」は、おありだろうと思う。
自分が、何を欲しているか。
それは、どうもたらされたのか。
例えば、次に買うクルマを、どう決めているか。
試乗して見積り取って・・・は無論として。
まず最初の選択として、試乗しに行くクルマは、どう選んだろうか?
たぶん、雑誌やネット記事、メーカーのホムペなどの、情報で決めたろう。
見たことも触れたこともない新型のクルマに興味を持ち、欲しくなる。
それって、どういう仕組みなのか?
個人的に、昔から、不思議で仕方がなかったのだ。
変わり者である私は、「誰も乗っていないレア車だが、乗ってみると面白い」クルマやバイクが大好きで、そんなものを探すのを得意だと自認してきた。
しかし、買うものと言えば他と同じ量産車であることには変わりはないし、決して私のオリジナルというわけではなく、同じクルマに乗っている人も多数いる。当然、私と同じような評価をしている人も、たくさんいる訳である。
そんな、ただ少し微妙なだけと思しき私の価値観はしかし、それでも普通の人には通じないことが多い。
普通の人は、自動的に、大メーカーが推す最新モデル、大概は皆が欲しがっているものだが、それを同様に欲しがるようにできている。
そして、どうにもそれ以外の価値観を、頑なに認めなかったりする。
どうしてそうなるのか、いくら話を聞いてもわからない。
もう「そうなっている」としか言いようがない。
「HONDAのバイクは最高、スーパーカブは名車、CBRは最強…」
でも、傍から見ている分には、その本人はちっとも楽しそうに見えなかったりする。顔は笑顔だけど作り笑い(苦笑い?)だったり、挙句、意外と短期間で降りたり、買い替えたりする。満足できないのだ。
次に何を欲しがるか。
自分が欲するほどの価値は、どこからどうやって来るのか。
そのほとんどは、他人からもたらされる情報に影響されることで始まり、それに心情をクリエイトされることで成立する。
(なので、しばしば、ほぼ「受け売り」または「Copy」となる。)
他人に依存しているから、いつまでも満足できない。
などと言われると、納得できない、時には怒り出す人も居そうだが。
そういう方は、是非本書を読んでいただきたい。
真摯に文を追い、我が身のふるまいを冷静に評価する能力があれば、目鱗は請け合う。
何せ、スマホやSNSで「カスタマイズ」された情報に浸る機会が多い昨今だ。欲望を操作する側に、有利な環境は強化され続けている。気を付けるに越したことはない。
ただ本書、あまり読みやすい本ではない。
「哲学とは、自分が何を考えているか、考えることだ」
という私の個人的な定義に依れば、
「自分が欲するものの出処はどこか、よく考えてみよう」
という本書の題目は、哲学そのものだ。
そのせいかは分からないが、本書の言い回しは、どことなく哲学チックだ。
いちいち回りくどくて、分かりにくい。
また、下記に挙げたAmazonのリンクでも、レビューで多数の指摘が出ているが、とにかく翻訳が下手だ。
思い出すと、高校生の頃、英語のリーダーの授業で、「センテンスの意味がよく分からないので、直訳でお茶を濁してまえ」のようなことを、よくやっていたが。あれと同じような文体が、結構な割合で並んでいる。「小難しい言い回しで誤魔化しただけと思しき、ちっとも意味が伝わってこない、下手くそな日本語」だ。
文章の構成も下手くそで、「ここから先が結論/秘訣/コツ」のような予告の後が、大した話じゃなかったりするので、ガッカリ感も一入(ひとしお)だったりする。
読み初めは、論としてま新しく感じられることもあり、じっくり楽しんで読むのだが、同じような話が続くし、訳が下手で読みにくいしで、だんだん嫌気がさしてきて、後半は速読化してしまった。
終章に近くは、いわゆる対処法についても整理されているのだが、総じて「すぐに信じたり流されたりせずに自力で踏みとどまって考えましょう」的なお話にも感じられ、ということは、理屈としては「本書の内容をそのまま鵜呑みにしてもいけない」ことになるわけで、根本的な矛盾を孕んでいるようにも感じられる。
そんなわけで、読書体験としては、いまいちモヤモヤだったのだが。無論、得るものもあった。考え方としてはま新しく、話としては面白いので、参考程度と割り切れば、面白くも読めるだろう。
また、本書の論は、「自分が」無為な他人のコントロールを避けるにはどうしたらいいか、という方向の作文がほとんどだが、「他人の」欲望をどう上手く/効果的にコントロールするか、の方向での転用(悪用?)も可能なように書かれている。いわゆるリーダーシップ論のような読み方もできる作りになっているので、そちらの意図で読みたい人にも便利だろう。
論理の本質をダイレクトに知りたい向きは、師匠であるルネ・ジラールの原著を直接当たった方がいいだろう。
Amazonはこちら
欲望の見つけ方: お金・恋愛・キャリア 単行本 – 2023/2/21
「人は皆、誰かの欲望を模倣する。」
まさにその通りの内容の本だ。
ルネ・ジラール という学者に師事した著者が、その思想を実際に即して解説している。
その骨子だが、
我々は普段、自分の意思で物事を決定していると考えており、当然、次に何を欲するかも、同様に考えている。
だが実際は、自分が属する群れの意図や、そのモデルとなっている特定の個人などの影響を大きく受けており、実質的に「ほぼ模倣」と言える行動を取っている。
それがどのようなメカニズムで発現し、どのような副次効果をもたらすのか、実際に即して考察する。
・・・といった感じだ。
そのメカニズムの詳細だが、理屈としては、あまり複雑なものではない。
齟齬を承知でかみ砕くと、
まず、隣人と比較して、自分には無いものを「ボクも」とばかりに欲しがるケースがある。これは、人間が持つ根元的な欲望の在り方であり、古代から繰り返し発現しているメカニズムだ。このタイプの欲望は、スムーズに達成できるとは限らない(例えば、欲しいものが「組織上のポスト」のような有限の物だったり、上司など第三者の評価が介在する場合は尚更)。また、上手くいかなかった場合は「争い」に簡単に転化してしまう危険なものでもある。
また、別の形態として「理想的なモデルとして想定されたものの模倣」もある(セレブの持ち物を欲しがる、など)。こちらは、(第三者の)誘導などの意図が介在している場合がほとんどであり(メーカーのステマや、権力者による強制や誘導など)、その管理の実力次第で功罪両面がありうる。(イノベーションになる場合もあれば、民衆圧迫・人権蹂躙になったり。)
グループの理想からの乖離や、事態を収めるための人柱といった意味で、「罪」や「スケープゴート」といった行動も、同じ文脈から説明できる。
外部からの影響による欲望の操作から脱却するには、欲望を操作するメカニズムの種類を意識し、自分がどのメカニズムで欲望を操作されているのかを自覚することで、今の自分の欲望の真偽や、重要度を冷静に判断することが肝要となる。
また、同じことを集団に対して働きかける(あなたが管理職だったら、上記に従った正しいフィードバックをチームに与える、といったような)ことで、グループ内での無用な争いを避け、グループ全体のポテンシャルを底上げしたり、より目的に適う形で、結果に貢献できる。
本書では、古今東西の文献を駆使して、それぞれの模倣の形態の具体的な事例が列挙・説明されている。
(本書のボリュームは、主にこの著者による例示と解説のクドさで造られている。)
また、そこからの脱却の方法も、具体的にケース分けして説明されている。(少々説得力に欠けるようで、あまり納得感は得られなかったが。)
・・・と、本書に倣って、小難しい説明をしてきたが。
自分の事を考えても、朝の通勤時に見かけた中華料理屋のメニューが気になって昼飯をラーメンにしたり、街中やテレビで見かけたカッコいいクルマに似た形や色のを自分でも欲しがったりとか、意図的に、または単に結果として、外部の情報に流されて次の行動を決めていることに関しては、身に覚えがある。
皆様にも、同じような「身に覚え」は、おありだろうと思う。
自分が、何を欲しているか。
それは、どうもたらされたのか。
例えば、次に買うクルマを、どう決めているか。
試乗して見積り取って・・・は無論として。
まず最初の選択として、試乗しに行くクルマは、どう選んだろうか?
たぶん、雑誌やネット記事、メーカーのホムペなどの、情報で決めたろう。
見たことも触れたこともない新型のクルマに興味を持ち、欲しくなる。
それって、どういう仕組みなのか?
個人的に、昔から、不思議で仕方がなかったのだ。
変わり者である私は、「誰も乗っていないレア車だが、乗ってみると面白い」クルマやバイクが大好きで、そんなものを探すのを得意だと自認してきた。
しかし、買うものと言えば他と同じ量産車であることには変わりはないし、決して私のオリジナルというわけではなく、同じクルマに乗っている人も多数いる。当然、私と同じような評価をしている人も、たくさんいる訳である。
そんな、ただ少し微妙なだけと思しき私の価値観はしかし、それでも普通の人には通じないことが多い。
普通の人は、自動的に、大メーカーが推す最新モデル、大概は皆が欲しがっているものだが、それを同様に欲しがるようにできている。
そして、どうにもそれ以外の価値観を、頑なに認めなかったりする。
どうしてそうなるのか、いくら話を聞いてもわからない。
もう「そうなっている」としか言いようがない。
「HONDAのバイクは最高、スーパーカブは名車、CBRは最強…」
でも、傍から見ている分には、その本人はちっとも楽しそうに見えなかったりする。顔は笑顔だけど作り笑い(苦笑い?)だったり、挙句、意外と短期間で降りたり、買い替えたりする。満足できないのだ。
次に何を欲しがるか。
自分が欲するほどの価値は、どこからどうやって来るのか。
そのほとんどは、他人からもたらされる情報に影響されることで始まり、それに心情をクリエイトされることで成立する。
(なので、しばしば、ほぼ「受け売り」または「Copy」となる。)
他人に依存しているから、いつまでも満足できない。
などと言われると、納得できない、時には怒り出す人も居そうだが。
そういう方は、是非本書を読んでいただきたい。
真摯に文を追い、我が身のふるまいを冷静に評価する能力があれば、目鱗は請け合う。
何せ、スマホやSNSで「カスタマイズ」された情報に浸る機会が多い昨今だ。欲望を操作する側に、有利な環境は強化され続けている。気を付けるに越したことはない。
ただ本書、あまり読みやすい本ではない。
「哲学とは、自分が何を考えているか、考えることだ」
という私の個人的な定義に依れば、
「自分が欲するものの出処はどこか、よく考えてみよう」
という本書の題目は、哲学そのものだ。
そのせいかは分からないが、本書の言い回しは、どことなく哲学チックだ。
いちいち回りくどくて、分かりにくい。
また、下記に挙げたAmazonのリンクでも、レビューで多数の指摘が出ているが、とにかく翻訳が下手だ。
思い出すと、高校生の頃、英語のリーダーの授業で、「センテンスの意味がよく分からないので、直訳でお茶を濁してまえ」のようなことを、よくやっていたが。あれと同じような文体が、結構な割合で並んでいる。「小難しい言い回しで誤魔化しただけと思しき、ちっとも意味が伝わってこない、下手くそな日本語」だ。
文章の構成も下手くそで、「ここから先が結論/秘訣/コツ」のような予告の後が、大した話じゃなかったりするので、ガッカリ感も一入(ひとしお)だったりする。
読み初めは、論としてま新しく感じられることもあり、じっくり楽しんで読むのだが、同じような話が続くし、訳が下手で読みにくいしで、だんだん嫌気がさしてきて、後半は速読化してしまった。
終章に近くは、いわゆる対処法についても整理されているのだが、総じて「すぐに信じたり流されたりせずに自力で踏みとどまって考えましょう」的なお話にも感じられ、ということは、理屈としては「本書の内容をそのまま鵜呑みにしてもいけない」ことになるわけで、根本的な矛盾を孕んでいるようにも感じられる。
そんなわけで、読書体験としては、いまいちモヤモヤだったのだが。無論、得るものもあった。考え方としてはま新しく、話としては面白いので、参考程度と割り切れば、面白くも読めるだろう。
また、本書の論は、「自分が」無為な他人のコントロールを避けるにはどうしたらいいか、という方向の作文がほとんどだが、「他人の」欲望をどう上手く/効果的にコントロールするか、の方向での転用(悪用?)も可能なように書かれている。いわゆるリーダーシップ論のような読み方もできる作りになっているので、そちらの意図で読みたい人にも便利だろう。
論理の本質をダイレクトに知りたい向きは、師匠であるルネ・ジラールの原著を直接当たった方がいいだろう。
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欲望の見つけ方: お金・恋愛・キャリア 単行本 – 2023/2/21
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