読書ログ 「逝きし世の面影」 ― 2012/09/22 06:36
開国当時からの、日本人の生活文化の変遷を追う
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日本は、東洋の国の中で、最も早期に近代化(西洋化)を成しえた稀有な国だ、というのが定説かと思う。しかし、私は「日本人は昔と変っていないのではないか」と感じていて、実際、そのような読後感を得たと、以前、書いた。( 「日本海軍はなぜ誤ったか」 )。
本書は、逆に、「日本は変った」とする、具体的な論考だ。
過去、外国人が残した記録などを元に、当時の日本の風俗や文化を調べ上げて、日本がどんな国だったかを描き出さんとする力作だ。挿絵も多い。百聞は一見にしかずで、理解の助けになる。
参照した記録や文献の量もさることながら、それを時系列に整理して変遷を追い、矛盾や齟齬を含めて、全てを理解しようと試みる著者の力量は大したもので、緻密で説得力のある議論が展開される。西洋思考に毒された(ことも忘れ去った)今の我々にも、貴重なパースペクティブを与えてくれる。
どうも、昔の日本は、水戸黄門と、大岡越前と、鬼の平蔵の国・・・などではなかったらしく。
優しく、おっとりしていて、親切で、貧しいが、よく笑い、楽しげで、自然を愛する人々。混沌としているが、緩やかで、懐が深い。素朴で、平和な、楽園の島。
大陸などの近隣諸国に比べて、ずいぶんと平和でよい国、ともある。
実際、いいところだけを見ている分には、まるで楽園のように見える。
無論、(今の感覚からは)奇異なこともたくさんあった。
筆頭は、「裸体」だろうか。
当時、裸体をさらすことを恥と思う文化は日本にはなかったらしく、うら若き女性も、道端で全裸で「たらいで水浴び」をしながら、普通に世間話などをしていたそうだ。
そういった光景が普通なので、男性の方も、特段それに欲情するようなこともなく、ただ、風景のように接していたのだと。
外国人が、それを珍しがって、大喜びで凝視するから、女性の側も恥ずかしがるようになった、とも。
西洋風の、進歩した「恥じらい」の文化を伝えた、と言えば聞こえはいいかもしれないが。西洋人は、無垢だった我々に、リンゴを食わせて罪を負わせた、ヘビでもあったようだ。(その時から日本人は、葉っぱで?前を隠し始めた。)
昔の日本のありようは、ちょっと変だったかもしれないが、妙に重く、心に響くものがある。その段差が、変化や、違い、というものの本質を突いているようで、何かを示唆しているようにも感じる。(以前取り上げた、 「ピダハン」 にも似ている。)
そういう局面で、大切なのは、昔はどうだったか、の細部の検証ではなく、我々は変容しており、しかもそれを忘れている、という事実を認識することが第一歩だと思う。その用途には、実に有用な一冊と思った。
ただ、多少ひいき目というか、「日本はいい国だったはず」の視点ありきで書かれている面も否めないので、もう少し批判的な目線、ダークサイドも等しく描いているような、カウンターも網羅して読んだ方が、公平な理解になるかと思う。
余談だが、私は時折、理想を追うと言いつつ、何かを思い出そうとしているだけではないか、と感じることがあるのだが。このあたりの読書体験が効いているのかも知れない。
他方、「思い出そうとしている」ということは、裏を返せば「実は忘れていない」ということでもあり、私は、この過去の異形の日本に、何かしら、通底するものを感じているらしい。
確かに、我々は変わったのかもしれないのだが。変らないものも確かにあって、それが今でも、我々の周りのそこかしこで、にやけたり、舌を出したりしているような気がするのだが。
どうだろうか。
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私が読んだのは単行本だが、文庫版が安く出ている。
逝きし世の面影 (平凡社ライブラリー)
昔の日本女性の裸の挿絵がたくさんあるかも、と期待した貴方!。
あなたの罪を許そう。(笑)
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