バイクの上半分 292014/03/16 05:46




書けとは言っても、何でも書きゃいいというわけではない。
書き方にもコツがあると。

まず、やりたいこと、課題、目的、その「本質をズバリ一言」、
または、それを「思い出すキーワード」になる表現を選ぶのだと。

目の前にデカデカと貼る必要もない。
視界の隅に、何となく目に映る位置にあれば、それでいい。

意識して読む必要もない。
それがあることを、うっすらと意識しているだけでOKだ。

要はリマインダなので、それで十分なのだと。
そんなんでも、不思議なほど効果があるのだそうだ。
例えば、剥がすと、また同じミスを連発したりするらしい。
(まだ動作プロに落としこめていない証拠。)

本当に意識せずに課題の動作ができるようになっても、動作プロに完全に落としこめるまでは、もう暫く時間がかかるので、ちょっと長めに貼っておけと。
冬などのブランクの後では忘れる(埋もれる)こともありうるので、同じステッカーを定期的に貼り直すのも有りだと。
剥がし時というのは、大体は、自分で分かるものなのだそうだ。

生真面目な人は、アレもこれも書いて、タンクが耳なし芳一になりそうな所だが。これもよくないと。
貼るのはせいぜい3つまで。
複数貼るのなら、関連のあるものが良いと。

本書には、役に立つリマインダステッカーの例が、多数載っている。

(クリックで拡大)

日々気をつけるべきベーシックな事柄から、目的意識を持って取り組むべき高度な内容、仮想的に心得ておくべき事柄(メンタルトレーニングの課題)まで、分類して、いろいろと挙げてある。

いわば、普通のライダーが陥りがちな誤りと、その裏返しとしての課題を端的に並べてくれているので、参考になるものも多いのだが。

バイクの種類や年代によっては違ってきそうな内容もあるし、 いつぞや書いたように 、端的に抜き出してしまうと、誤解の恐れも否めない。

どうも、一般性に欠ける場合もありそうなので、ここで、いちいちを例示することはしないでおく。

興味がある方は、ご自分で本書を当たって頂きたいのだが、どうしてもという方は、コメント欄にでもご要望を書き込んでいただきたい。

なお、この「リマインドステッカー」のやり方は、ビギナーには適さない。方法論として「改善」を目的にしているので、まだ身についたものがない人、素の状態から何かを身につけようとしている人には、役に立たないのだそうだ。

#####

さて。
ずいぶん長くなったが、本書の連載は、今回で終りにする。

普通のライディング指南書とは違って難解だったし、繰り返しも多いしで、なかなか疲れる読書だったが。(半年以上かかった。)

かなり独自な視点から描かれていて、参考になる点も多かったし、概念レベルから直接的な実施方法まで網羅されていて、応用度も高い。優れた本だったと思う。

本書の目的は、「ライディングを癖にしておくことの意義を説明し、その具体的な方法を例示すること」だった。

「いちいち考えないとできない状態」は、自動プロの動作を妨げるので、それが何らかの突発事項や限界コントロールの瞬間と重なった場合、対応能力を落としてしまう、だから、一連の動作は、かなり細かいレベルまで、できうる限り癖化しておくのが大切、

ということ。

ずいぶん昔を思い起こすと、さすがにタンクに書きはしなかったが、課題を決めて、ライディングに取り組んでいたことは、結構あったような気がする。

これをできるようになろう(なりたい)、そう頭の片隅で意識しながら、乗るようなこと、

自分の動作が、意図した結果だったのか、とっ散らかっただけなのか、あとから思い出して、よくよく吟味すること、

よいと分かった動作、ああこうやればいいんだ!とわかった動作は、意識して繰り返して癖にすること、

そんなことだ。

以前はよくやっていた気がするのだ。
最近は、めっきり減っている。(てか、やってない。)

逆に、ミスを見つけては自分を戒めることは、増えているように思う。
カウンタ を「チン」しているわけではないので、確かではないが。

ああ、今は横のクルマの動作が見えていなかったな、
コーナーの轍が見えていなかったな、
不測の事態がありえたな、
無事だったのは、ただのラッキーだな、
気をつけねば、
ちゃんとやらねば、

と、そんなことだ。

衰えの証拠だと自覚している。

また、本書は、ライディングの価値観として、実際に走る上で有用かどうかを、ストイックに見つめる傾向が強かった。それは、言外に、見世物的なのはよくない、という戒めとしても書かれていた。無論、これには私も賛同する。公道で、喝采なんて何の得にもならない。

失敗は、仕方がない
ただ、失敗を許す自分を許すな

そういう、厳しいことを言ってくれるオッチャンには、ずいぶん久し振りに会った気がする。

そのオッチャンを、紹介して終わろう。

元は心理学の先生で、その後、自動車業界でのマンマシンインターフェースの研究、特に、「義肢のように身体に一体となりうる制御系」を標榜し、運転時の心理的な問題を多面的に研究、その結果を電子制御などに生かした、とそんな経歴だ。
バイクへの関与は全く趣味的なもので、それまでの彼の知識を存分に応用し、ニュルでインストラクターなんかもしていると。「ビモータを風のように操り、人間と車体の一体化について論じる教授」とは、USの雑誌の評だ。

心なしか、人の心の奥底を見透かすような、冷た~いジキルハイドちっくな怖さを感じますが。この経歴なら仕方ないかな。

こえー。(笑)
(クリックで拡大)


Amazonはこちら
The Upper Half of the Motorcycle: On the Unity of Rider and Machine


追記

先日、本屋の店先で驚いたのだが、つじつかさ氏の古ーいライテク本なんかが、まだロングテールで売れ続けているのだそうだ。
ライディング事始め
ベストライディングの探求
(個人的には、 このあたり も良かった気がするんだが。今は置いて。)

世間が、真面目なライディング指南書に、どれだけ飢えているのかを表しているように思う。

この手の書き手は、もう国内にはいないのだと思うのだが、だとしたら、出版業界殿は、本書のようなものを見つけて、翻訳でも出してくれれば、大好きな「ロングテール」のネタになりうるんじゃないかと思うのだが。

つまらん物欲支援本ばかりじゃなくて、実際に読者に貢献する、そういう真面目な仕事を、少しはして欲しいと思う。


コメント

_ BX-RS ― 2014/03/16 15:07

はじめまして。
連載、興味深く読ませて頂きました。

バイクの免許を取るすこし前に本家のサイトを見つけて以来、ちょくちょく拝見しています。

バイクライフのスタートは世間と少し違う形でした。
そのせいか個体、維持、乗り方などは世間より少し恵まれている方だと思います。
ゴールはまだ見えませんがバイクとの一体化は常に意識しています。
そして何より流れの中から無事で生きて帰ってくる事を。

動作プログラムという概念はこの連載で初めて気がつきました。
どうりで、言葉を使って意識しても運転中は間に合わないなと。

きっと、だれかの「遥か昔」が私の「今」なのでしょう。
知的な財産は埋もれかけているものの、まだ元気だと思います。
あるうちに生のまま吸収できる環境はまだい良い方と感じてます。

最後に、失敗用カウンタはAmazonで買いましたがまだ取り付けていません(笑)

_ ombra ― 2014/03/21 05:58

いらっしゃいませ。

このダラダラ長期連載にお付き合いいただいたとは。
恐縮です。
大変な忍耐力ですね!。

察しますに、バイクに関しては「向上の途上」にいらっしゃるようですね。
このような情報が、何かしらお役に立てればいいのですが。

本書の内容は私にとっても真新しいことが多く、一見、突拍子も内容に見えますが、いろいろ考えてみると納得が行く。そんな内容が多かった気がします。なるほど、そうなっていたのか、確かにそうなっている、とそんな感じ。

動作プロの話もその一つで、スポーツや、演奏などを見ても、同じだなあと感じるようになりました。スキーヤーやバイオリニストなど、うまい人は完全に入っちゃっていて、道具と一体化して「そういう生き物」になってしまっているようです。

私の方は、バイクはもう乗るよりも、こうやって、調べたり考えたりしている時間の方が、遥かに長くなってしまっていて。バイクとは、ディスコネクトが進みつつありますが。

BX-RSさんには、是非たくさん乗っていただいて、「バイクに乗る生き物」と化して、楽しんでいらしてください。

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