◆ 日本社会のしくみ (新書) ― 2023/04/12 06:10
前回同様、日本の社会を論じた本だが。題名とは異なり、日本のしくみの中でも、特に労働市場について、統計などから読み解いた本だ。
戦後の労働市場は、軍への人材登用の仕組みほぼそのままに、①地元の農林‘業や自営業(中卒)、②都会の工場勤めや商店員(高卒)、③大企業ブルーカラー(大卒)の3層に分かれた。
そのレイヤを分けるのは学歴だったが、「どこの大学を出たか」という学校名が判断基準で、学科、つまり「何を学んだか」は問題にされなかった。
①~③のレイヤの間のバリアは高く、レイヤを超えて、特に上方向に就職し直すのは、ほぼ無理だった。
昭和~平成にかけて、労働市場に変化が起き、①の規模の縮小に伴い、余剰分は都会に流入して、②に加わって非正規雇用の層となった。しかし、③の数や規模はほぼ一定で、今に至るまで変化がない。
他方、大学の定員が増え、進学率が上がった結果、大卒の人数は増えた。しかし、大企業に就職できる人数は増えなかったから、競争率が上がり、狭き門となった。これがそのまま上下に波及して、進学の受験は低年齢化し、就職した後の社内競争も激化することになった。後者については、管理職に昇進できる人数が減ったり、役職定年の明確化といった形で、その影響が明確化した。
従来、①の層は、野菜や米を互いに融通し合うような地域密着型の生活で、持ち家が一般的で家賃がかからないので、生活費は安かった(だから低賃金でも暮らせていた。)他方、③は、都会に住み家賃を払い、衣食住も都度購入なので、老後も生活費がかかり続ける。日本の年金制度は、主にこの2種類を想定しており、②のレイヤ、低賃金だが、老後も生活費がかかり続ける層は、サポートから抜け落ちている。この点が、社会の高齢化に伴い、不安感を増している大きな要因になっている。
こういった、労働市場の特徴や、採用に関する様式なり文化というのは、国によってかなり違う。それは、主には各国の産業の歴史を反映したものだからだ。現在でも、状況に応じて変化をし続けているものの、根本的・大規模な変化は起きにくい。
労働市場は、透明性や公開性が向上したり、流動性が高まったとしても、平等化するとは限らない。実際、競争が激化し、弱者の賃金の切り下げ圧力が増し、所得格差が拡大したり、正規・非正規間や、男女間の格差には変化をもたらさない傾向が見られる。
成果主義や目標管理の導入といった節々で、表層的な変化と混乱を続けているが、労働環境の向上に寄与しているとはいい難い。
…本書のダイジェストは、そんな感じだ。
私も、年を取ってから転職を経験した口なのだが、会社は無論、業界を問わず、人事という人々の独特の文化に辟易したものだ。
人事界の文化(その実は、かつてのリクルート社の出身者が勝手に創作したお作法が「掟」化したもの)というのが確としてあり、職歴の書き方とか面接での受け答えとか、お作法が細かく決まっていたりするのだが、それが所与(説明しないでも知っていて当然のこと)の事項であり、かつ絶対的に正しい、そういう前提でお話は進む。
それが、就職して社内に入った途端、全て消散し水泡に帰すのだから、ブルシット感もひとしおだった。
最も気になったのは、人事と呼ばれる人たちが、彼らのお作法が、世の中にが何も寄与していないことを一片も気にすることなく、ただ横並びで「人事界のトレンドに追いつく」ことだけに汲々としている事。さらに、経営層が、それを無責任に放置している事だった。
これでは労働市場はよくならないと強く感じたし、実態は、今でも同じようなものだろう。人事は今も、「かごめかごめ」を、独特の節回しで踊り続けている。ご苦労なことだ。
著者は当初、本書を「日本の仕組み」そのものとして、もっと広い視野で描く構想だったようだが、そのベースとなる労働市場の仕組みを書くだけで終わってしまった、とのこと。
実際、600頁という新書にしてはありえないボリュームで、記述も詳細なので読みごたえがある。
ただ、労働市場の仕組みをどう変えたらいいか、この労働市場をどう生き抜くのか、の両方の意味で、「じゃあどうしたらいいんだ」に応える本ではなく、答えは自分で考えろ、と突き放している。
当初の目的である、労働市場に留まらない「日本全体の仕組み」を書く構想もあるようだから、そちらに期待したい。
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日本社会のしくみ 雇用・教育・福祉の歴史社会学 (講談社現代新書) 新書 – 2019/7/17
◆ 酒の本、2冊 ― 2023/04/16 06:28
最近、酒に係わる本を2冊読んだのでログっておく。
なぜか蒸留酒&ブルーバックスつながりだ。
◆ 焼酎の科学
発酵、蒸留に秘められた日本人の知恵と技 (ブルーバックス) – 2022/1/20
焼酎の歴史や製造プロセス、魅力や飲み方など広く解説・紹介した本だ。
醸造酒である日本酒は寒い地方が製造に適しており、南の暖かい地方で安定した製造は難しかった。そこで、材料やプロセスに工夫を凝らし、蒸留というプロセスを導入し、改良した結果が焼酎であると。
材料や製法が多様で、地方性も豊かであること、
その製造プロセスの詳細は、今でも不明な点が今でも少なくないこと、
(「こうすればできる」は分かっているが、「どうしてそうなるか」は分かっていない)
「薄めて飲む蒸留酒」という、世界的にも珍しい酒であること、
などが書いてある。
私は、基本的に家飲みだ。
好きな時に、好きなものを、好きな量、嗜むスタイルだ。
私はルーツの一つが東北なせいか、基本的に日本酒派だ。
今でも当地の酒蔵から直販で仕入れて嗜んでいる。(ネットのおかげ。)
が、最近は焼酎も増えていて、酔いと覚めが優しい点に救われている。
ただ、焼酎は、芋、米、黒糖に蕎麦など、材料からして種類が多い。地方や酒蔵でも特徴がある。ロック、水割り、お湯割りなど、飲み方も多様だ。
で、「どれを飲む?」となると、これらの掛け算だけ選択肢があるわけで、酒屋の棚に並ぶ膨大な数の瓶を見上げて、目を回したりしている。
といった選択の役に立つガイドラインの類では、本書はない。
焼酎を飲めるというは、日本に住まうが故の僥倖の一つであり、それが、どう楽しんでも良い、懐の広いものであることは教えてくれる。
実は、私のお気に入りは泡盛である。
夏の暑い時期に、チャンプルーなどとやると幸せだ。
また夏が来たら、楽しめればなと思っている。
◆ 最新 ウイスキーの科学
熟成の香味を生む驚きのプロセス (ブルーバックス) – 2018/2/15
昨今、日本のウイスキーが世界で高評価を得ている事や、ハイボールのブレイクにより国内でも消費量が増え、全体にウイスキーが見直されていることなどを鑑み、 表題に「最新」がつかない前著 を大幅改訂した本、ということだ。
内容は題名に違わず、ウイスキーがどうやって作られるのか、科学的な観点で、思い入れたっぷりに記述している。
その複雑な製造プロセスは、例によって「未だ不明の点が多い」ようなのだが、ざっくり超訳すると、原液の60%というエタノール濃度がどうやら「マジックナンバー」であることと、樽を使った年単位の長い熟成に秘訣があるらしい。
ウイスキーも、スコッチやバーボンなど種類が多い。製造国も、銘柄も多いし、歴史も長い。愛好家の蘊蓄は、語らせると止まらない量と深みがある。
ビジネスとしての歴史も紆余曲折を経てきている(米国の禁酒法とか)。そこに割って入り、先人に学び、自己研鑽で世界的な地位を得るまでになったジャパニーズウイスキーの苦労も、並大抵ではなかったようだ。
なにせ、ウイスキーは製造期間が長い。商品として出せるまで5~10年単位の時間がかかるし、それも「熟成を待つ」期間がほとんどというロングタームだ。その間に、市場の方は、上は総量、下は個人の嗜好や流行りまで、変わり続ける。ビジネスとして割り切るには、あまりにもそぐわない世界だ。
だからこそ、それを嗜む人の時間までをもゆったりとさせるのだろうし、それを愛好する人は、後を絶たないのだろうと思う。
私自身、ウイスキーはあまり飲まない。たまに懐かしさで、ダルマや角瓶辺りを、ストレートで舐める程度だ。昨今流行りのジャパニーズ高級品や、舶来のブランド物には手を出さない。価値が分からないのだ。(笑)
少し前に、死病を得てこっち、しばらく飲まない日が続いた。
でも、最近は少し飲めている。
飲んでいいよ、と医師に言われてはいないのだが(笑)、禁止された覚えもないし(食べたいものは何でも食べていいです禁忌はありません、とは言われている)、たとえ飲んだとて、老い先短いことに変わりない。もう、飲みたいと思うのなら飲んでいいだろう、と勝手に解釈してチビチビやっている。
何せ、この病、治る見込みはない。
治療自体が、根治を前提にしていないのだ。
医師の判断のKPI は、「延命期間×QOL」だ。治療で見込まれる延命期間と、その期間の生活の質の掛け算。どちらかがゼロに近いなら、その治療は無駄である。別の治療を模索するか、手がないとなれば、治療そのものが止まる。
酒が、そのKPI に与える影響は小さい。
と勝手に考えて、体調悪化を招かない程度に、嗜むようにしている。
量が少なくて済む分、蒸留酒系は有利だ。
無論、日本酒やワインなどの醸造酒も飲みますけど!
なぜか蒸留酒&ブルーバックスつながりだ。
◆ 焼酎の科学
発酵、蒸留に秘められた日本人の知恵と技 (ブルーバックス) – 2022/1/20
焼酎の歴史や製造プロセス、魅力や飲み方など広く解説・紹介した本だ。
醸造酒である日本酒は寒い地方が製造に適しており、南の暖かい地方で安定した製造は難しかった。そこで、材料やプロセスに工夫を凝らし、蒸留というプロセスを導入し、改良した結果が焼酎であると。
材料や製法が多様で、地方性も豊かであること、
その製造プロセスの詳細は、今でも不明な点が今でも少なくないこと、
(「こうすればできる」は分かっているが、「どうしてそうなるか」は分かっていない)
「薄めて飲む蒸留酒」という、世界的にも珍しい酒であること、
などが書いてある。
私は、基本的に家飲みだ。
好きな時に、好きなものを、好きな量、嗜むスタイルだ。
私はルーツの一つが東北なせいか、基本的に日本酒派だ。
今でも当地の酒蔵から直販で仕入れて嗜んでいる。(ネットのおかげ。)
が、最近は焼酎も増えていて、酔いと覚めが優しい点に救われている。
ただ、焼酎は、芋、米、黒糖に蕎麦など、材料からして種類が多い。地方や酒蔵でも特徴がある。ロック、水割り、お湯割りなど、飲み方も多様だ。
で、「どれを飲む?」となると、これらの掛け算だけ選択肢があるわけで、酒屋の棚に並ぶ膨大な数の瓶を見上げて、目を回したりしている。
といった選択の役に立つガイドラインの類では、本書はない。
焼酎を飲めるというは、日本に住まうが故の僥倖の一つであり、それが、どう楽しんでも良い、懐の広いものであることは教えてくれる。
実は、私のお気に入りは泡盛である。
夏の暑い時期に、チャンプルーなどとやると幸せだ。
また夏が来たら、楽しめればなと思っている。
◆ 最新 ウイスキーの科学
熟成の香味を生む驚きのプロセス (ブルーバックス) – 2018/2/15
昨今、日本のウイスキーが世界で高評価を得ている事や、ハイボールのブレイクにより国内でも消費量が増え、全体にウイスキーが見直されていることなどを鑑み、 表題に「最新」がつかない前著 を大幅改訂した本、ということだ。
内容は題名に違わず、ウイスキーがどうやって作られるのか、科学的な観点で、思い入れたっぷりに記述している。
その複雑な製造プロセスは、例によって「未だ不明の点が多い」ようなのだが、ざっくり超訳すると、原液の60%というエタノール濃度がどうやら「マジックナンバー」であることと、樽を使った年単位の長い熟成に秘訣があるらしい。
ウイスキーも、スコッチやバーボンなど種類が多い。製造国も、銘柄も多いし、歴史も長い。愛好家の蘊蓄は、語らせると止まらない量と深みがある。
ビジネスとしての歴史も紆余曲折を経てきている(米国の禁酒法とか)。そこに割って入り、先人に学び、自己研鑽で世界的な地位を得るまでになったジャパニーズウイスキーの苦労も、並大抵ではなかったようだ。
なにせ、ウイスキーは製造期間が長い。商品として出せるまで5~10年単位の時間がかかるし、それも「熟成を待つ」期間がほとんどというロングタームだ。その間に、市場の方は、上は総量、下は個人の嗜好や流行りまで、変わり続ける。ビジネスとして割り切るには、あまりにもそぐわない世界だ。
だからこそ、それを嗜む人の時間までをもゆったりとさせるのだろうし、それを愛好する人は、後を絶たないのだろうと思う。
私自身、ウイスキーはあまり飲まない。たまに懐かしさで、ダルマや角瓶辺りを、ストレートで舐める程度だ。昨今流行りのジャパニーズ高級品や、舶来のブランド物には手を出さない。価値が分からないのだ。(笑)
少し前に、死病を得てこっち、しばらく飲まない日が続いた。
でも、最近は少し飲めている。
飲んでいいよ、と医師に言われてはいないのだが(笑)、禁止された覚えもないし(食べたいものは何でも食べていいです禁忌はありません、とは言われている)、たとえ飲んだとて、老い先短いことに変わりない。もう、飲みたいと思うのなら飲んでいいだろう、と勝手に解釈してチビチビやっている。
何せ、この病、治る見込みはない。
治療自体が、根治を前提にしていないのだ。
医師の判断のKPI は、「延命期間×QOL」だ。治療で見込まれる延命期間と、その期間の生活の質の掛け算。どちらかがゼロに近いなら、その治療は無駄である。別の治療を模索するか、手がないとなれば、治療そのものが止まる。
酒が、そのKPI に与える影響は小さい。
と勝手に考えて、体調悪化を招かない程度に、嗜むようにしている。
量が少なくて済む分、蒸留酒系は有利だ。
無論、日本酒やワインなどの醸造酒も飲みますけど!
◆ (新書) 国際報道を問いなおす ――ウクライナ戦争とメディアの使命 ― 2023/04/30 07:54
国際報道が、どんな変遷を経てきて、今どういう姿になっているのか。80年代から長く国際報道の現場に関わった著者が、豊富なファクトと、自身の篤い経験を元に記した本だ。
国際報道の実態は、常に変化している。ジャーナリズムは、外からの検証と、ジャーナリスト自身による内側からの反省により、変化や進歩を続けている。所属する組織は無論、事件の当事者や、情報の受け手からの要請も、変わり続けている。国際情勢は変化し、当局の規制も多様だ。さらに、報道のツールも常にアップデートされており、そのやり方は一様ではない。
日本における国際報道の元祖と言えば、開高健のベトナム戦争辺りが思い浮かぶが、本書の記述もその辺りから始まり、中東や天安門といった時々のイベントを追いながら、国際報道がどう変わってきたのかを、現場目線で追っている。
日本の国際報道は、ロイターなど西欧大手のコピペ翻訳に負うケースが多い、とある。著者は一貫して、その姿勢を嘆いている。そして、ジャーナリストが自ら現場に赴き、自分の目で事件を見、判断し解釈するという、その本来の在り様を説いている。
昨今のウクライナ戦争で、国際報道は、再び脚光を浴び、その内容やスタイルに対する批判や検証の機運も高まっている。著者も当然その辺りを勘案し、終章で、ウクライナ戦争に即した形で、日本の国際報道の方向性を具体的に示し、後輩たちにエールを送る形で、本書をまとめている。
著者は、ウクライナ戦争が起きたことで本書により強い意味が生まれたと書いているが、私もその通りだと思う。日々の報道を見ていても、通り一遍だったり、垂れ流しだったり、ある種のバイアスや偏向を感じさせるものも少なくない。他方、かなり突っ込んだ濃厚なルポも見受けられ、逆に、受け手としての姿勢や能力を、問われている感じもしている。その情報のキャッチボールのプロセスに、本書は軸を与えてくれたように思った。
個人的な感想だが、報道に関しては、日本に限らず世界的にも、質の劣化、結論ありきの姿勢、体制や権力への忖度や同化、取材力の低下、思考力の劣化といった事象を印象付けられた。だが、考えてみると、同様の方向性は、報道に限らず、ビジネスや官僚といった垣根を越えて、日本の組織にあまねく広がっている事態を、端的に表しているように感じられる。その点、少々、暗澹たる気分になった。
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国際報道を問いなおす ――ウクライナ戦争とメディアの使命 (ちくま新書) 新書 – 2022/7/7
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