◆ (単行本) 武器としての「中国思想」 ― 2024/02/18 15:13
我々の社会を成す規範というのは、意外といい加減なものだ。
例えば、政治家が悪さを働いたとして、それを非難する声はあれ、法的には穴になっていて罰せられるとは限らない。となると、非難という唯一の対抗手段自体が、無視すればいいだけの対象になってしまう。安部前首相などは、実際にその線で押し通したし、今はそれに続く政治家が渋滞を起こすほどになってしまっている。
それが逆に照らし出すのは、非難という手段のそもそもの正当性だ。政治家らしくない、そぐわない、という批判は、政治家らしい、それにそぐう理想像がまずあって、それが社会的に共有されていることが前提になる。ただ、そんな理想像があったとして、果たしてその正当性は、どう証明されるのか。
それでは政治家と言えない
→ 政治家とはこういうものだ
→ その論拠は?
政治家のみならず、官僚、教師、芸能人、国民など、主語は幾らでも変えられる。
そういう、価値観の大元を成す規範や基準というのは、実のところ、文化的に、または習慣として、何となく共有されたり、受け継がれたりしているもので、境界線は思ったよりぼんやりしていて、人により、時代により、違ったりもしている。
著者は、日本の場合、その規範の大多数を中国思想から借りてきた歴史的な都合上、根本的な所で考え方が通底しており、その効能なり行く末なりは、中国思想の歴史を追うことで、理解も予想もできる。そう本書で喝破している。
本書のもう一つの白眉は、その中国思想の歴史解釈だ。孔子、孫氏、韓非子といった「何とか子」の羅列でもあるそれを理解しようとすると、従来は、その面倒な著書に自力で逐一当たるか、専門書や解説書に依るしかない。しかし、各々の思想に特化した場合がほとんどで、それらの差や、時系列の変遷などを掴むのは容易ではなかった。それが本書では、簡潔かつ一気通貫的に説明されており、一気に解消されている。
大き目の活字で、少ない文字数による、簡素な記述。素人にも配慮した本である。今流行りの、重要部の太文字強調や、章末のおまとめまでついている。ある程度は気楽に読んでもらいたいという著者の配慮だが、その簡潔さ加減は全く痛快なほどで、忙しい皆様のタイパ対策(飛ばし読み)にも十二分に配慮されている。
本書で著者が伝えたいのは、
・ 中国思想は、人間の歴史の根本を成す価値観や判断基準に沿っている
・ 人間の歴史は、ある程度決まった方向性を踏襲する(歴史は韻を踏む)
・ その流れは人類全体に普遍的なもので、汎用性がある
・ 従って、中国思想の影響下にある日本はもとより、世界的にもその把握や予想に役立つ
ということだ。
簡潔さゆえの説明不足感は多少はあるが、読みやすさの効能と両立できており好感が持てる。
個人的には、日本が長年行ってきた、西洋思想とのガッチャンコへの膨大な労力が無視されているのは気になったが、「武器」つまり振るうカタナの一本として中国思想を備えんとする皆様には、十分役に立つだろうし、材料にもなる。その意味で、万人におススメできる。
ご一読を提案したい本だと感じた。
Amazonはこちら
武器としての「中国思想」 単行本 – 2023/9/27
例えば、政治家が悪さを働いたとして、それを非難する声はあれ、法的には穴になっていて罰せられるとは限らない。となると、非難という唯一の対抗手段自体が、無視すればいいだけの対象になってしまう。安部前首相などは、実際にその線で押し通したし、今はそれに続く政治家が渋滞を起こすほどになってしまっている。
それが逆に照らし出すのは、非難という手段のそもそもの正当性だ。政治家らしくない、そぐわない、という批判は、政治家らしい、それにそぐう理想像がまずあって、それが社会的に共有されていることが前提になる。ただ、そんな理想像があったとして、果たしてその正当性は、どう証明されるのか。
それでは政治家と言えない
→ 政治家とはこういうものだ
→ その論拠は?
政治家のみならず、官僚、教師、芸能人、国民など、主語は幾らでも変えられる。
そういう、価値観の大元を成す規範や基準というのは、実のところ、文化的に、または習慣として、何となく共有されたり、受け継がれたりしているもので、境界線は思ったよりぼんやりしていて、人により、時代により、違ったりもしている。
著者は、日本の場合、その規範の大多数を中国思想から借りてきた歴史的な都合上、根本的な所で考え方が通底しており、その効能なり行く末なりは、中国思想の歴史を追うことで、理解も予想もできる。そう本書で喝破している。
本書のもう一つの白眉は、その中国思想の歴史解釈だ。孔子、孫氏、韓非子といった「何とか子」の羅列でもあるそれを理解しようとすると、従来は、その面倒な著書に自力で逐一当たるか、専門書や解説書に依るしかない。しかし、各々の思想に特化した場合がほとんどで、それらの差や、時系列の変遷などを掴むのは容易ではなかった。それが本書では、簡潔かつ一気通貫的に説明されており、一気に解消されている。
大き目の活字で、少ない文字数による、簡素な記述。素人にも配慮した本である。今流行りの、重要部の太文字強調や、章末のおまとめまでついている。ある程度は気楽に読んでもらいたいという著者の配慮だが、その簡潔さ加減は全く痛快なほどで、忙しい皆様のタイパ対策(飛ばし読み)にも十二分に配慮されている。
本書で著者が伝えたいのは、
・ 中国思想は、人間の歴史の根本を成す価値観や判断基準に沿っている
・ 人間の歴史は、ある程度決まった方向性を踏襲する(歴史は韻を踏む)
・ その流れは人類全体に普遍的なもので、汎用性がある
・ 従って、中国思想の影響下にある日本はもとより、世界的にもその把握や予想に役立つ
ということだ。
簡潔さゆえの説明不足感は多少はあるが、読みやすさの効能と両立できており好感が持てる。
個人的には、日本が長年行ってきた、西洋思想とのガッチャンコへの膨大な労力が無視されているのは気になったが、「武器」つまり振るうカタナの一本として中国思想を備えんとする皆様には、十分役に立つだろうし、材料にもなる。その意味で、万人におススメできる。
ご一読を提案したい本だと感じた。
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武器としての「中国思想」 単行本 – 2023/9/27
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