バイクの本 ~ 「日本初のスクーター ラビットの技術史」2012/03/11 07:10



ラビットの技術開発史を、当時の技術者が解説した本

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以前、スクーターの歴史を描いた、いい本がないなあ・・・と 書いた。

訂正しよう。
本棚を良く見たら、本書があった。

以前、何故か題名だけで反射的に買ってしまい、買っただけで安心して、本棚にしまって忘れていた・・・。(笑)

この本は、実際にラビットの開発にかかわっていた技術者が、モデルの変遷と、開発の勘所を解説した本だ。本書を著されたのは退職された後だが、当時、既に富士重の社内にもラビットの開発史がまとまっていて、それも参考にされている、とのこと。正確さでは随一の「内部資料」と言えるだろう。

各モデルの青焼き図面まで掲載されている。
(Clickで拡大)

ラビットの発端は、中島飛行機時代の下請け工場に保存されていた、「米国製ポウエル」だった、とある。戦後に解体された中島飛行機の工場の一つ、呑竜工場のかたがそれを見つけて借用して来る、関係者で試乗して、これは面白い、役に立つ(売れる)、平和産業として推進に適している・・・となり、事業として立ち上げ、と事が運んだようだ。

ポウエル(パウエル?)を試乗するの図。

当時の製造ラインの様子。(まだ「ライン」じゃないけど。)

「最初のグー」こそ、既存の物の解体・解析による模倣から始まっているが、その後は独自の発展を遂げる。
技術者の目で見れば、お手本をバラしただけで、ここはもっとこうした方が、のような点はいくらでも出てくるものだし、実際に自分で製造してみれば、さらにいろいろ変えたくなるものだ。市場の方も、要求もトレンドも変わっていく。続々と誕生したライバル(銀ハトとか)の動向や、当局の意向(免許制度の改変とか)にも影響される。新しい技術や材料が出てくれば、取り入れてみたくなる・・・と外乱要因には事欠かない。

開発の履歴を、大雑把に俯瞰すると、大型化による性能と利便性の両立が縦糸で、シリーズ展開(小排気量車の追加:免許制度対応)や、独自の技術開発(エアサスやトルコンなど)が、横糸として絡む、という構造かと思う。

専売公社の「ミスタバコ」

牛乳配送仕様

戦後すぐの頃、四輪も含めて、電気自動車の開発が盛んだった、というのはあまり知られていないと思う。ラビットにも電動の試作車があったのだが、朝鮮戦争の特需で鉛の値段がハネ上がり、蓄電池がペイしなくなるに伴って、その他一般の電気自動車と同様に消滅した、とある。

AndroidやiOSは、電気兎の夢を見るか?

当時の開発の風景も子細に紹介されている。とにかく、マジメに開発を進めているのが印象的で、所詮スクーター、などと適当に手を抜くようは気配は微塵もない。

スタティックロード試験

ダイナミックロード/振動測定試験

ライバル車の購入や、比較評価もなされていた。
ドカティのスクーター、しかもトルコン豪華仕様だそうだ。こんなのあったんだ・・。

当時、ラビットが独自に開発した技術の解説も多いのだが、中でも、著者自身が直接、開発されたという「HK式防振技術」の解説には力が入っていて、本文中でも何度か繰り返し取り上げられる。これは特許切れの後、スクーターの制振技術のスタンダードとして長く使われた、とある。

特許広報 昭38-12215
トラクションと振動をうまく分離するのは、難しいのである。

巻末に、1948年のラビット D-11型の取扱説明書の丸コピーが添付されて、本書は終わる。

さて。
この「内部資料」により、作り手側が、どういうつもりでモノを造り出していたのか、その意図はある程度わかった。

後は、「外部の情報」、つまり、作り手の意図が、製品に反映されていたのか?と、市場でどう評価されたか?をたどらねば、我々が今、これを評価する意味がない。それは、読者側の仕事である。

残念ながら、私はラビットに実際には乗ったことがないし、誰かが乗っているのを仔細に観察したこともない。試乗したことがある友人の意見を、また聞きした程度だ。だから私は、ラビットのデキについて云々するレベルにない。
ラビットの愛好者は今も多いと聞く。きっと、何かしら独特な、強い魅力があるのだと思う。

個人的には、実車を見ると、ちょっと大きいなあ、と思ってしまう。しかし、世間を見回すと、もう車検つきの大型スクーターも一般化して久しいし(BMWまで出すの?)、「大きめのスクーターで、ゆったり楽しく」というスタイルも、まんざら悪くなかったようにも思える。そうだとしたら、時代は、ラビットの精神に「帰っている」のかも知れない。

個人的な見解だが、本格的な電動化が始まったら、スクーターのパッケージは、原点として復活しうる余地が大きいと思う。(Piaggio辺りは既に製品を市販している。) 電気兎の末裔たちが、モーターサイクルとは別の、独自の変化を遂げたら面白いなあ、と勝手に妄想している。


「飛行機の増槽を側車に流用」
すんげえカッコいいんですけど。(笑)

今あっても売れそうな感じ?。


Amazonはこちら。
古本です。残念ですが、山海堂なので。

日本初のスクーター ラビットの技術史―戦後の街を駆け抜けた小さな先駆者の足跡

目下、ぼったくり古本しかないようですが。その手の本屋にまだ在庫があるのでは・・?。
ちなみに、定価は¥2800とお高めでした。その分、紙質がすごく良いです。