読書ログ 「方丈記私記」 ― 2013/02/09 06:57
方丈記の解説ではない。
本文の冒頭にある通り、筆者の経験を記した本だ。
方丈記には、飢饉や地震などの自然災害や、戦役による災厄など、あらゆる類の災いの記述がある。
それを、太平洋戦争当時、筆者の面前にあった光景と重ね合わせ、深く思索した足跡を記した本だ。
元の刊行は、70年代だ。
既に日本は、復興の坂を駆け上がる最中。
筆者は、戦時には青年の年代。古典にも明るく、日本史にも詳しかった。
この年代に、文学を志した人である。方丈記の一行一行を噛むように味わい、行間どころか、頁の裏の奥まで目を凝らし、思いを廻らせて来た。
その視点と、筆者自身の視点を並べて、戦災に呻く眼前の光景を眺める自分を、外から、掘り下げている。
それを読む私は、長明と、筆者と、自分の視点を3つ並べて、感心したり、考えたり、力んだり、恥じたりする。
随筆調で、格調や美しさとは異なった日本語だが、ことを伝える文体として、見習うべき文体だと感じた。
今のように、読み易いが底の浅い、押し付けがましい日本語ではない。活字の密度も高いし、読むのに労力が要る。
そうだった。
文学とは、こういう色合いを帯びていた。
ついこの前まで光っていた、日本のエレガンス。
久しぶりだ。
読後感として、何か、明確に残るわけではないのだが。
たまには、こういう読書もいいなと思った。
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方丈記私記 (ちくま文庫)
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