バイクの本 「ママはバイクを降りない」2013/06/30 04:36



図書館の文芸書の棚で、バイクの本を探してみると、女性の著書も、ちらほら見かける。

やたらにカッコいい題名だ。 ハードボイルド小説のオンナ版あたりを想像させるが。
違うらしい。ノンフィクションとある。

女性向けバイク雑誌にライターとして関わっていた著者が、バイクに乗る子持ちの女性(母親)のクラブを立ち上げ、それが、全国規模に育って行くまでの様子を記した回顧録だ。

著者は、仕事としてもバイクに関わるプロの物書きだが、妊娠、出産により、バイクに乗れなくなる。欲求不満を募らせる傍ら、同じ立場の女性ライダーの集いを立ち上げることを思い立つ。半分は雑誌の企画だったようだが、次第に組織が独立して行くと共に、著者も、何らかの脱却を遂げる、とそんな内容だ。

1995年の刊で、書かれているのは、その少し前の話だ。ネットやメールが、やっとピヨピヨ歩きの頃。昨今の、スマホ&ソーシャルツールの世の中なら、かなり違った展開になったろうと想像される。

子育て云々は、父親である私にも、同様の覚えがある。

子供が小さかった当時、私も一時期、バイクに乗るのは諦めた。
子供の「ニーズ」の方が遥かに大きいことに、圧倒されたのだ。

子供の「ニーズ」。

例えば、私が一日ツーリングに出たとて、大体は、見知った道を、いつも通りにブラブラ走ってくるだけだ。ガス代を払い、道路公団にまでご上納差し上げた挙句、私の気分が、少し晴れたかな?と、そんな所がせいぜいと。

子供は違う。

近所のお散歩や公園でも、全身全霊で行くことを欲する。
行ったら行ったで、その実存の全てを賭して、力いっぱいブチ遊ぶ。
そうしながら、驚異的なスピードでもって、成長していく。
肉体的にも、精神的にも。

時間の濃度が、まるで違うのだ。

その濃さに圧倒されて、私の時間を、こっちのサポートに使う方が、よほど有益だと、そう思った記憶がある。

子育てのストレスは、想像を超えるものだ。週末、私が子供を見ている少しの間、開放された女房が、ホッとするのが感じられた。子供が増えた後も、上の子は私、と分担することで、ストレスも相殺できていたようだ。家族にとって、必要な措置だったともいえる。

それ以上に、子育ては、いろんなことを教えてくれる・・・、
というのは、話がさらにズレるので、別の機会に書くとして。
いつか書いた 気もするが。)

そうやって、子供と過ごすことに慣れてしまい、体力も、バイクの腕も、めっきり落ちてきた辺りで。

子供の方が、親に飽きる。

あの「ニーズ」は、初めだけの、期間限定だったのだと、実感する。

いや、初めから、知ってはいた、はずなのだが。
それが今、来たことにおののく。
(歳を取ると、そういう瞬間が増える。)

というわけで、「降りないパパ」は、晴れてリリース→バイクに復帰可能、と相成るわけだが。

・・・リハビリから始めるハメになるんである。

身体能力は、とっくにピークを過ぎている。
体力も気力も、ダウンヒル状態だ。

私なんぞは、もう、バイクの腕も、年間走行距離も、元には戻ることはなかろう…と諦めている。
(そんなんで、だんだん、軽いのが欲しいなあ…となり、 モリーニの話 に繋がったりするのであります。)

思えば、こういうストレスは、女性の方にこそ、のっぴきならないだろう。

21世紀の世の中とて、子育ては女性、という先入観は根強い。
経済的に男性が優位な状況ともなれば、そこから脱せない場合も多かろう。

そも、母親がバイクに乗ることに、旦那や姑(!)に理解がある場合は、極めて少ないだろうとは、容易に想像される。

逆に、旦那に理解がありすぎて、自分だけ毎週ツーリングに出られたりすると、それも怒り心頭だろう。
(旦那の影響で乗り始めた、という場合も少なくないだろうから、このパターンは多そうだ。それだけ深刻とも言える。)

バイクに無理解な周囲の環境と戦う意味では、 別の本を以前取り上げたが 、辛らつ度がまるで違う。

本書のいい所は、最後は家族でツーリング、なんてホンワカには終わらないことだ。

著者は、バイクは一人で乗るものだ、と言い切っている。

実際、その通りなのだ。
バイクという乗り物は、一人の人間が、独力で操るのが基本だ。
失敗して、怪我する(死ぬ)のも。
誰も助けてくれないとて、文句は言えない。
(実際、最近は、助けてくれないことも多い。)

著者は、バイクのそんな辛らつさに、キッチリと向き合っている。
その辺の盆栽クンや、雰囲気オジサンライダーなんかより、よっぽど「真のバイク乗り」なのだ。

バイクは、身体で「憶える」ものだ。
裏返すと、バイクの楽しみは、身体が「覚える」。
そうなると、身体の方から、欲するようになる。
「そういう生き物」になってしまう。
オンナも同じだ。

そうなると、女も降りない。
母でも婆でも、関係ない。

その意味で、題名には偽り無い本である。

ただし、著者の子育てに軸足がある話でもあるので、バイク乗り一般にお勧めできるかは、微妙そうだ。

お勧めしたいのは、
 1) まず、女性一般
 2) 次に、女房を孕ませた、バイク乗りの旦那
 3) 最後に、無自覚なオッサンライダー


Amazonはこちら
昔の本なので、古本しかない。
お勧めするほどの出物もないが、一応アゲておく。
ママはバイクを降りない

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