◆ (単行本) 自衛隊エリートパイロット ― 2023/09/26 08:28
人が一番好きなことは、中学二年の時にやっていたことだ。
・・・と誰かが言っていたが。
その是非は置くが、個人的には納得感があって、何度も引用している。
今、私は病で死の床にあり、「最期にやりたいこと」をもがく日々を送っている。思い浮かべるだけはタダの、その選択肢の中で、「飛行機」、特に軍用機がよく浮かんでくる。
中学二年の当時、私は、プラモ少年だった。
専門は飛行機、特に軍用機だ。
ハセガワやタミヤのキットは、当時は今ほどは高価くなかった。
他方、資料の方は、雑誌類に加え、英語の文献なども出回り始めていて、ディティールに関する情報は実に豊富になっていた。(ので、プラモの方も凝りだすと切りがなかった)。
先日、終活で実家の片づけをしたのだが、当時作った機体や買い集めた資料がたくさん出てきた。
今、改めて、それらを眺め直してみたのだが、「中二の模型少年・私」の感覚がありありと思い出され、なかなか感慨深かった。
F-14とか16とか、こんなエキゾチックな形状が、どうしてああも飛べるものか。
86ブルーの飛びっぷりは、どうしてああも優雅なのか。
零戦は、本当に運動性よく、無敵だったのか。
資料を読み、感じ、憶え、考えて。
夢中だった。
本書の副題は、「激動の時代を生きた5人のファイター・パイロット列伝」。
内容はさほど過激ではなく、ベテランの戦闘機乗りによる自筆の原稿が、章毎に並んでいる。
表向き、自衛隊のベテランパイロットたちに、かつての搭乗機を語ってもらう、という企画で、お題は、以下の5機の戦闘機だ。
F-86F
F-104J
F-4EJ
F-1
F-15J
原稿の内容は、ご自身の履歴、知識、経験談、教訓なども含まれており、お題である機体に関する記述は、ほんの少しだけだったりするのだが。通しで読むと、当時の自衛隊の組織としてのありようや、パイロット諸氏の感じ方・考え方の元となった組織文化のようなものも伺われ、興味深かった。
パイロットが、機体が、どういう想定の元、どう扱われていて、彼らが何をこなし、どう感じ、何を得たのか。
単純に、中二レベルの飛行機マニアの視点で読んでも、十分楽しめた。
F-86の、長い翼にふんわりと支えられるあの飛びっぷりに慣れた後に、直線番長もいい所のF-104Jへの乗り換えは、想像以上に厳しかったようだ。何せ、あの翼面荷重だ。ちょっと気を抜けばスピードが落ちるし、失速すれば即墜落のリスクにつながる。
余談だが、タイヤが細かった頃の、昔のバイクと似た感覚かと。タイヤは剛性が弱く接地面が小さいので効率が悪く、曲がればスピードが落ちるし、荷重とトラクションのインタラクションがシビアで、コントロールのマージンを予め確保しておかないと、命取りになる。
F-4EJは「ダンプ」のあだ名で、乗った感じもその通り。何でもこなすオールランダぶりは重宝されたようだ。それはある意味エポックで、後々まで影響が残った。これ以降、複座と双発のアーキは自衛隊内で「正」となり、次期戦闘機の選定などにも大きな影響をもたらしたようだ。
これも余談だが、飛行機マニアの間では、自衛隊のファントムは、人殺しをしたことがない「きれいなファントム」として、世界中から特別視されていた。ベトナム戦争を始め、あらゆる紛争でコキ使われていた機体なので、キレイな機体は本当に珍しかったのだ。そう考えると、このグレーの地味な塗色も、清潔なものに見えてくるから不思議だ。
ファントムと言えば、個人的には偵察機のRF-4Eの方が大好きなのだが(福島の原発事故を真っ先に撮りに行っていた)、偵察機を語り始めると切りがなくなるので、今は止めておく。
F-1は、やはりいろいろ厳しかった。その成り立ちからして、通常の選定を経た戦闘機よりも、要求仕様とのズレが見られる等々、課題(遺恨?齟齬?)が多かったようだ。その辺り、傍から見ていて感じた通りだったのだが、しかし現場では、乗り手を含む関係者の暖かい見守りで、支援戦闘機としてのタスクをこなし、その役割の確立役として、良い仕事をしたようだ。その結果は、後のF-2の選定にも生かされたことだろう。
個人的には、この翼面荷重の高さはやはりネックで、姉妹機T-2ブルーによる下向き空中開花の事故がその辺りを端的に示しているように感じられて、「自由に飛べない」イメージ(F-104Jと類似の)がどうしても付きまとい、あまり好きな機体ではなかったのだが。パイロット氏に、やんわりと訂正された感じだ。
F-15Jは、まだ現用機だけあってあまり詳しくは語られないのだが、やはりデカいなーとか、パワーも剛性もすげえなーとか、じゃあそれをどう生かすか、タクティクスが重要になるよなー、といった辺りに、つらつらと思いをはせることになった。
以上、乗り物好きの素人の目で語らせてもらったわけだが、実際の現場の雰囲気は、無論そんなものでは済まない。
乗り物の趣味人と異なるのは、まず、機体は自分では選べない。(場合により希望はできる。)誰か他の担当者が諸般の事情を経て選定した機体が当てがわれるだけだ。
彼らの仕事の目的は、特定の任務である。その形も時と場合により変わる。これまた上から落ちてきたそれを、与えられた機体の特性を生かして、最大限効果的に行う。その手腕は、プロとしてのパイロットに一任される。
他人の評価で、自分以外の目的のために、命がけで乗る。
それがカッコいいだけのものではないことは、無論だが。
乗り物好きのマインドでは、やはりない。
しかし、その奥に光る、操縦への誇りと愛情は、やはり馴染みがあるもののように思えた。
たとえそれが、大量破壊兵器であったとしても、だ。
それを設計し、製造し、維持する人のことも知りたいと思った。
きっと、通底する思いは共有できそうな気がするし、知らない話をたくさん聞けるだろうしで、とても面白そうだ。
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自衛隊エリートパイロット 激動の時代を生きた5人のファイター・パイロット列伝 (ミリタリー選書 22) 単行本(ソフトカバー) – 2007/8/31
・・・と誰かが言っていたが。
その是非は置くが、個人的には納得感があって、何度も引用している。
今、私は病で死の床にあり、「最期にやりたいこと」をもがく日々を送っている。思い浮かべるだけはタダの、その選択肢の中で、「飛行機」、特に軍用機がよく浮かんでくる。
中学二年の当時、私は、プラモ少年だった。
専門は飛行機、特に軍用機だ。
ハセガワやタミヤのキットは、当時は今ほどは高価くなかった。
他方、資料の方は、雑誌類に加え、英語の文献なども出回り始めていて、ディティールに関する情報は実に豊富になっていた。(ので、プラモの方も凝りだすと切りがなかった)。
先日、終活で実家の片づけをしたのだが、当時作った機体や買い集めた資料がたくさん出てきた。
今、改めて、それらを眺め直してみたのだが、「中二の模型少年・私」の感覚がありありと思い出され、なかなか感慨深かった。
F-14とか16とか、こんなエキゾチックな形状が、どうしてああも飛べるものか。
86ブルーの飛びっぷりは、どうしてああも優雅なのか。
零戦は、本当に運動性よく、無敵だったのか。
資料を読み、感じ、憶え、考えて。
夢中だった。
本書の副題は、「激動の時代を生きた5人のファイター・パイロット列伝」。
内容はさほど過激ではなく、ベテランの戦闘機乗りによる自筆の原稿が、章毎に並んでいる。
表向き、自衛隊のベテランパイロットたちに、かつての搭乗機を語ってもらう、という企画で、お題は、以下の5機の戦闘機だ。
F-86F
F-104J
F-4EJ
F-1
F-15J
原稿の内容は、ご自身の履歴、知識、経験談、教訓なども含まれており、お題である機体に関する記述は、ほんの少しだけだったりするのだが。通しで読むと、当時の自衛隊の組織としてのありようや、パイロット諸氏の感じ方・考え方の元となった組織文化のようなものも伺われ、興味深かった。
パイロットが、機体が、どういう想定の元、どう扱われていて、彼らが何をこなし、どう感じ、何を得たのか。
単純に、中二レベルの飛行機マニアの視点で読んでも、十分楽しめた。
F-86の、長い翼にふんわりと支えられるあの飛びっぷりに慣れた後に、直線番長もいい所のF-104Jへの乗り換えは、想像以上に厳しかったようだ。何せ、あの翼面荷重だ。ちょっと気を抜けばスピードが落ちるし、失速すれば即墜落のリスクにつながる。
余談だが、タイヤが細かった頃の、昔のバイクと似た感覚かと。タイヤは剛性が弱く接地面が小さいので効率が悪く、曲がればスピードが落ちるし、荷重とトラクションのインタラクションがシビアで、コントロールのマージンを予め確保しておかないと、命取りになる。
F-4EJは「ダンプ」のあだ名で、乗った感じもその通り。何でもこなすオールランダぶりは重宝されたようだ。それはある意味エポックで、後々まで影響が残った。これ以降、複座と双発のアーキは自衛隊内で「正」となり、次期戦闘機の選定などにも大きな影響をもたらしたようだ。
これも余談だが、飛行機マニアの間では、自衛隊のファントムは、人殺しをしたことがない「きれいなファントム」として、世界中から特別視されていた。ベトナム戦争を始め、あらゆる紛争でコキ使われていた機体なので、キレイな機体は本当に珍しかったのだ。そう考えると、このグレーの地味な塗色も、清潔なものに見えてくるから不思議だ。
ファントムと言えば、個人的には偵察機のRF-4Eの方が大好きなのだが(福島の原発事故を真っ先に撮りに行っていた)、偵察機を語り始めると切りがなくなるので、今は止めておく。
F-1は、やはりいろいろ厳しかった。その成り立ちからして、通常の選定を経た戦闘機よりも、要求仕様とのズレが見られる等々、課題(遺恨?齟齬?)が多かったようだ。その辺り、傍から見ていて感じた通りだったのだが、しかし現場では、乗り手を含む関係者の暖かい見守りで、支援戦闘機としてのタスクをこなし、その役割の確立役として、良い仕事をしたようだ。その結果は、後のF-2の選定にも生かされたことだろう。
個人的には、この翼面荷重の高さはやはりネックで、姉妹機T-2ブルーによる下向き空中開花の事故がその辺りを端的に示しているように感じられて、「自由に飛べない」イメージ(F-104Jと類似の)がどうしても付きまとい、あまり好きな機体ではなかったのだが。パイロット氏に、やんわりと訂正された感じだ。
F-15Jは、まだ現用機だけあってあまり詳しくは語られないのだが、やはりデカいなーとか、パワーも剛性もすげえなーとか、じゃあそれをどう生かすか、タクティクスが重要になるよなー、といった辺りに、つらつらと思いをはせることになった。
以上、乗り物好きの素人の目で語らせてもらったわけだが、実際の現場の雰囲気は、無論そんなものでは済まない。
乗り物の趣味人と異なるのは、まず、機体は自分では選べない。(場合により希望はできる。)誰か他の担当者が諸般の事情を経て選定した機体が当てがわれるだけだ。
彼らの仕事の目的は、特定の任務である。その形も時と場合により変わる。これまた上から落ちてきたそれを、与えられた機体の特性を生かして、最大限効果的に行う。その手腕は、プロとしてのパイロットに一任される。
他人の評価で、自分以外の目的のために、命がけで乗る。
それがカッコいいだけのものではないことは、無論だが。
乗り物好きのマインドでは、やはりない。
しかし、その奥に光る、操縦への誇りと愛情は、やはり馴染みがあるもののように思えた。
たとえそれが、大量破壊兵器であったとしても、だ。
それを設計し、製造し、維持する人のことも知りたいと思った。
きっと、通底する思いは共有できそうな気がするし、知らない話をたくさん聞けるだろうしで、とても面白そうだ。
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