読書ログ 「太平洋戦争 最後の証言 第三部 大和沈没編」 ― 2013/02/16 08:03
会社のリストラの時の話だ。
「203高地と戦艦大和、どっちがいい?」という言われ方があった。
砲弾が雨降る中を単独で駆け上がることを強いられるのと、
集団で閉じ込められ逃げ口を塞がれたまま沈められるのと、
どちらがいいか選べ、という意味だ。
両方とも、勝ち目がない。
勝ち目がないのを承知で出て行った、巨大な最新鋭旗艦。
(使いようがなかった/使われ方を間違った、不幸な存在、またはムダ。)
航空機の時代に遅れて来た、艦隊戦を想定した大型戦艦。
(コンセプトからして間違い。)
そんな揶揄や、羨望、プライドなどが入り混じった、微妙で、難しい過去。
大和のコンセプトが間違っていた、というのは嘘だと思う。
真珠湾の時に、既に稼動していたこの巨艦は、ずば抜けた破壊力を持つ、優れた兵器だったし、その威容は、晴れの舞台装置としての役割も果たしていた。
確かに、ずば抜けた破壊力を遺憾なく発揮できた機会は多くはなかったし、居てほしい時に居なかったり、撃つべき時に撃たなかったり、と失敗も少なくなかった。しかし、全てが理路整然と上手く行ってはいなかったのは、敵も同じだ。
最後の出撃に、片道しか燃料を積まなかったのは、沈む覚悟を強いたのではなくて、もう、それしか油が残っていなかったからだ。
特攻だった。
みんな知っていた。
特攻とは、命をもって戦え、と強いることではなかったと思う。
もう、命しか、戦うものがない。
そこまで追い込まれていることを、全体として、知っていた。
悪いことに、その雰囲気にお墨付きを与えるしくみには、不自由しない国だったのだ。
ダメだ、イヤだ、そう気付いたり、思ったりする人間は必ず居る。後から見れば、その人たちが正しかった、と批判するのはたやすい。だけど、その当時、全体として、群れとして、転げ落ちて行く、その勢いを止められる訳ではなかった。
歴史は、そうやって動いて行く。
戦時の大和の動きには、躊躇のようなものを感じる。
大和は、舞台装置でもあったと、上に書いた。
誰か、その舞台がなくなるのを、恐れているような。
そんな配慮と、微妙な戦果と、少々の幸運とで、戦争の終盤まで生き残った大和は。
少数、生き残れたクルーを救ったのは、「運」だった。
海中で爆発した大和が、渦に呑まれて沈んで行くクルーの一部を、海面に押し戻したのではないか、と書かれている。
その彼らを最終的に救い上げたのは、「神風」の精神なんかじゃなく、現実にその場に舞い戻ってきた、リアルな存在としての「雪風」だった。
本書は、大和のルポである。
生き証人の証言を始めとする取材と、現存する資料を編み合わせて、文章にしている。
私は、この手のルポは、好きではない。
時系列に従って進む戦況が「縦糸」で、それ追いながら、符合させる形で、現場の証言を織り交ぜて行く作りになっている。
私は、この「縦糸」が信用できない。
(大本営発表が混じっている。)
情報や経験を広く集めて、集積して一本化するというのは、現代の我々でも至難の技だ。情報自体が少なく、混乱していた戦争の当時、それはもっと難しかったろう。それに、日本がこの作業を苦手とするのは、伝統でもある。あまりに苦手で、戦局が傾いたくらいだった。
だから、その縦糸に符合したことをもって「検証」と称することに、納得が行かないのだ。
ドラマチックな演出もよくない。
下衆な言い方だが、特攻にロマンを乗せる癖、もっと下衆に言うと、他人の死を美化して酔う性質(弔い合戦、のような)は、人間が持つナチュラルな感情なんだろうか?。
だが、
あの戦争に関わったご本人が、今、語る言葉は、リアルで、重い。
それを(脚色に気をつける必要があるが)読めるだけで、本書の価値は、十二分にある。
自分の死を前に、腰をすえた人間の心情があった。
そして、その横で生き残った、自分の生の意味を、自責の念と共に問い続ける生還者の心情が、現存する。
残念なことに、彼らが、命がけで守ろうとした国や子供達は、その思いを、しかと受け止めたようには見えない。
冒頭の例え話もそうだが、大和は、理解されていないどころか、象徴として、不躾な使われ方をされ続けている。
宇宙船にしたてて、繰り返し繰り返し、ロマンのために戦わせたりもしている。(あれは悪趣味だと思う。)
便利で豊かだが、どこか歪んでいる現代。
帰宅の電車を毎日のように止めている「尊い命」に、舌打ちをしたりしているような我々は、特攻に関わった命を論じる資格など、無いのではなかろうか。
だから、ただ、学ぶのみである。
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太平洋戦争 最後の証言 第三部 大和沈没編
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