バイクの本 「Moto Morini 3 1/2 & 500 Performance Portfolio 1974-1984」 つづき ― 2013/03/24 05:35

(暖気だけで終わってしまった 先週 の続き。)
今回の本は、表題のモリーニVツインを扱った、英国の雑誌のインプレ過去ログ集だ。(当然、英語である。)
Strada
(写真はクリックで拡大、以下同じ。)
フェリーニの映画で、8 1/2(オットー・エ・メッツォ)というのがあったが。
それ流で行くと、この3 1/2は、トレ・エ・メッツォ、となるか。
(多分、300と半分cc、といった程度の意味かと。)
この、トレメッツォの歴史や背景などは、後から追うことにして。
まずは、モノそのものの観察、これがどんなバイクなのか、そのとっかかりの情報を、本から拾ってみるとしよう。
まずはエンジンから。
バルブは二本、シリンダーヘッドに垂直に、平行に配置される。
シリンダーヘッドの内面は平面。ピストンヘッドがくぼんでいるが、これはバルブのリセスではなく、燃焼室だ。
ヘロンヘッドである。
だから、こんなに圧縮比が高い。(Sportモデルで、11.0に及ぶ。)
カムはVバンク間に置かれ、短いベルトで駆動される。
ここからバルブまではロッド、OHVだ。
点火周りの電装品は、ベスパと同じもののようだ。
Vバンクの角度は、72度。
クランクは、シリンダーの中心線の交点から、少しずらして置かれるという、凝った設計だ。
幾分かショートストロークのボアストロークに、軽めのクランクの組合せ。
エンジンの吹けはビャンビャン!と、元気いっぱいだ。
シリンダーの配置は、左右に50mmの間隔を置かれ、走行風による冷却に配慮している。それが、実際に十分な効果を持つことは、仔細な走行テストで実証済みである。
各部の加工精度もよかった。シフトフィールは、グッチの大型車よりも良いくらい、とある。(笑)
6速である。
クランクケースを始めとして、エンジン各部の造りは、ちょっと華奢だが必要十分、加工精度も悪くない、という印象で共通している。
シンプルで部品点数が少なく、懸念点や弱点は、ほとんど見当たらない。
(カムベルトの耐久性くらいだろうか。マニュアルデータでは「2万kmで交換」とのことだが。現在入手できる代替品が、同じ品質とは限らない。良くなっている可能性も、なくはないが。)
維持も整備にも、神経質そうな雰囲気はない。
オイル管理などの、基本的なメンテが行き届いていさえすれば、長期間に使える(寿命が長い)エンジンだろうと思う。
(逆に、オイル管理などの基本メンテ次第で寿命が決まる、とも言えるだろう。中古車の程度は、オーナー履歴や、店の扱いに大きく左右されることになる。)
車体側は、一般的なクレードル構成だが、独自の工夫はいくつかある。
面白いなと思ったのは、配電盤があることだ。
サイドカバーの中の風景。
いかにもゴチャゴチャしていて、手を抜いたのでは?と勘ぐられそうなパッと見だが。実際は逆だ。ここ一箇所で、電装網の全ての状態を、テスター一発で当たれる。コードは色分けされていて、たどるのも容易と。トラブルシュートもラクな、優れた構成である、とのことだ。
心おきなく軽く回る小型のエンジンを、高からず低からず、ロールの邪魔をしない位置を選んで置く。(スポーツ性への配慮を感じさせる。)
キャブからインマニ、エキパイの経路にも制約が少ないので、セッティングのバランスも良かったろう。(ドカティは、前後シリンダーの熱状態の違いで苦しんだ。そういう、いびつな感じがしない。)
メッキを始めとした、各部の贅沢な造り。
イタリアの有名どころの、高級なパーツ群。
アセンブリは、ファクトリーの職人による、一機ずつの手組み。
これは、イタリアの高級品だったのだ。
Sport
リア乗りで軽く操ることを標榜した、アライメント。
シングルシートと、低くて短いハンドル。
(このころ、日本人はまだ、アップハンの根元にしがみついていた。)
344cc 42ps/8500rpm、軸距離 1384mm、装備重量 150kg
この容姿には惹かれた。
潔い。
奥底で、何かを狙っているような、強かさがある。
なのに散らかることなく、しっくりと、まとまっている。
この混沌とした公道で、バイクを操ることだけを純粋に楽しもうとしたとき、この形、この軽さは「使える」のではないか。
そんな予感。
ただ、無心に操られること、それだけのために、生まれたマシン。
遊びのバイク。
「公道バイク」。
ふっと、その匂いがしたような気がした。
(つづく)
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Moto Morini 3 1/2 & 500 Performance Portfolio 1974-1984 (Performance Portfolio Series)
コメント
_ moped ― 2013/03/24 17:57
_ ombra ― 2013/03/31 07:49
まいどです!。
> 興味が沸いてきました(笑)
> カッコいいです。
そうでしょ? (笑)
そうそう、エンジンにお詳しい(笑)mopedさんにお伺いしたいのですが、
・72度のVツインのメリット、デメリット
・クランクセンターを、シリンダー中心線の交点からずらす意味
もしご存知でしたら、そのうちでいいので、教えてください。
(昔、どこかで習ったような気がするのですが。完全に忘れました・・・。)
> 興味が沸いてきました(笑)
> カッコいいです。
そうでしょ? (笑)
そうそう、エンジンにお詳しい(笑)mopedさんにお伺いしたいのですが、
・72度のVツインのメリット、デメリット
・クランクセンターを、シリンダー中心線の交点からずらす意味
もしご存知でしたら、そのうちでいいので、教えてください。
(昔、どこかで習ったような気がするのですが。完全に忘れました・・・。)
_ moped ― 2013/03/31 09:56
まいどです。
私が見た実車は、短いハンドルのカッコいいやつではなく、アップハンドルになって、ゆるいバイクになったモデルでした。(苦笑)
>そうそう、エンジンにお詳しい(笑)mopedさんにお伺いしたいのですが、
>・72度のVツインのメリット、デメリット
>・クランクセンターを、シリンダー中心線の交点からずらす意味
>もしご存知でしたら、そのうちでいいので、教えてください。
1つめの狭角Vツインについてですが、
メリットはコンパクトになること、デメリットはコンパクトになったがゆえに、キャブレターのレイアウトに配慮が必要なのと、前後シリンダの冷却性能に差が生まれることです。
もともとVツインは、並列ツインよりもクランクケースがコンパクトにし易いですから、モリーニは想定する公道バイクとしての使い方を考慮して、狭角のデメリットよりも、メリットを選んだのではないでしょうか。
2つめのクランクセンターをシリンダ中心からずらすについてですが、
これはオフセットクランクのことを指しています。
燃焼圧力によってピストンが下がる際、シリンダ内壁にピストンが押し付けられる(サイドスラスト)のを低減するためです。これによってフリクションロス(摩擦損失)を低減でき、出力と燃費向上につながります。
どちらも、一般的な回答で申し訳ないです。
私が見た実車は、短いハンドルのカッコいいやつではなく、アップハンドルになって、ゆるいバイクになったモデルでした。(苦笑)
>そうそう、エンジンにお詳しい(笑)mopedさんにお伺いしたいのですが、
>・72度のVツインのメリット、デメリット
>・クランクセンターを、シリンダー中心線の交点からずらす意味
>もしご存知でしたら、そのうちでいいので、教えてください。
1つめの狭角Vツインについてですが、
メリットはコンパクトになること、デメリットはコンパクトになったがゆえに、キャブレターのレイアウトに配慮が必要なのと、前後シリンダの冷却性能に差が生まれることです。
もともとVツインは、並列ツインよりもクランクケースがコンパクトにし易いですから、モリーニは想定する公道バイクとしての使い方を考慮して、狭角のデメリットよりも、メリットを選んだのではないでしょうか。
2つめのクランクセンターをシリンダ中心からずらすについてですが、
これはオフセットクランクのことを指しています。
燃焼圧力によってピストンが下がる際、シリンダ内壁にピストンが押し付けられる(サイドスラスト)のを低減するためです。これによってフリクションロス(摩擦損失)を低減でき、出力と燃費向上につながります。
どちらも、一般的な回答で申し訳ないです。
_ ombra ― 2013/03/31 12:29
どうもです。
即返、ありがとうございます。
この流れるようなご回答。
さすがですね。
> どちらも、一般的な回答で申し訳ないです。
いえ、大変参考になりました。
ありがとうございました。
即返、ありがとうございます。
この流れるようなご回答。
さすがですね。
> どちらも、一般的な回答で申し訳ないです。
いえ、大変参考になりました。
ありがとうございました。
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短いハンドル、シングルシートのモリーニを見たら、
興味が沸いてきました(笑)
カッコいいです。
力まずライディングできて、しかも必要十分に速そうで、
良き公道バイクの見本です。