読書ログ 「英国人写真家の見た明治日本」 ― 2013/07/13 07:03
外国に行ってみると、逆に、日本ならではの文化や、ものの考え方を、強く意識することがままある。
そして、時間を振り返ると、それが、変容し、廃れつつあるのだな、とも。
では、そも、日本古来の、本当の「らしさ」とは、どういうものだったのか。
それを探るには、外国文化に感化され、変容する以前の日本まで、遡らねばならない。
これが意外に難しい。
例えば、浮世絵なんかを眺めた所で、日本がどうだったかなんて、わからない。
「当たり前」だからだ。
今、我々が、日々、目の前に、普通にあることを、とやかく(細かく)記述する気になれないのと同様、昔の人々も、当たり前に思っていたこと(体外的な環境や、内面的な感じ方の「基準」)を、書き残すことは少なかった。
さらに、「他と比べてどうだったのか」の記述となると、その当時に日本に入り込んだ外国人による論評しか、事実上、手立てがない。
外国人による日本評は、今でも興味を引く対象で、よく読まれるものらしい。本屋の平積みにもよく目にする。しかし、その評価基準は様々であり、情報の質としても、玉石混淆だ。
明治の前後に来日した、外国の手記というのは、意外とたくさんあるものなのだが。具体性が乏しく、理解に苦しむものが少なくない。
本書の特徴は、そこにある。
リアリティを支える映像、「写真」。
しかも、撮った本人の解説つき。
ニッポンなう@明治
写真つきのツイート。
まあ文庫版なので、写真の精度というか、「味」までが再現できているのかは微妙なのだが。この値段なので、文句は言うまい。
以前、図書館で借りたのだが、これはと思い、自分で買い直した。
1900年代初頭(1902年とかそんな)に、日本を訪れた著者の印象を、写真と共に記している。
本当は、もっと膨大な本らしいが、単なる説明とか、日本人にとって自明の部分を端折って、それ以外の所をPick upし、適宜、写真を挟んだ編集版、との事だ。
35mmのライカなんかが登場する遥か以前、当時の写真は、銀塩?の乾板を蛇腹にセットする、大仰なものの世代だったようだ。
どうも、「30分動かないでくださいね」というほどは、感度が低いわけではなかったらしいが。
それでも、今考えるよりは、遥かに手間がかかったものらしく、人足を雇って道具を運ばせて、セットして撮るまでに一仕事、とそんな感じだったらしい。
当然だが、白黒である。
日露戦争に同行してまで撮り続けた「日本の姿」は、やはり貴重だ。
「百聞は一見にしかず」
全く、著者が印象に残った当時の風俗について、いろいろと詳述してくれていて。読んでいて飽きない。
私が印象に残った点をざっと挙げると、
日本の風景
富士山を初めとする、日本の「風光明媚」が、あの、凝りに凝った庭趣味を誇る(当時も誇っていたのかは知らないが)英国人の胸にも、深く響いたこと。
日本の職人
焼き物の絵師や、川下りの船頭など、職業として一芸に打ち込む人々のひたむきさと、その仕事の深さについて。
日本人の波長
外国人相手に、急がず、堅実に、守りつつ、魅せる。そういう、確かで、強かな面があったこと。
日本の女性
当時、隣国である中国や朝鮮では、外国人の世話をするのは、もっぱら「奴隷の男性」であるのに対し、日本の宿屋や茶屋では、「女性」が主な接点となる。その違いもさることながら、日本女性特有の物腰の柔らかさ、細やかな心遣いに深く感銘する半面、裏でキッチリ物事を仕切っているしたたかさ(笑)といったあたりへの言及もあり。
なるほどなあ、と思うこと頻りだ。
当時の著者をして、この妙なる日本が変貌の際にあり、その良さ悪さが渾然となり、変化して行っている、と語らせているが。
「本物の日本に会っておくなら今のうち」
現代の読者である私をして、未だに、その変化の途上にあるように感じる。
いろいろと、参考になる本だ。
写真はあえてお見せしない。ご自分でお買い上げいただきたい。
一つ、気をつけるべきは、この著者は「強烈な日本びいき」である点だ。
だから、読に方にコツが要る。
妄信せずに、ポイントを拾って、自分でつなげて読まないと、見失う。
しかし。
漱石が、英国留学で神経衰弱に陥っていたのと同時期に、こんな英国人が日本にいたとは。
歴史の妙かと感じた。
英国人写真家の見た明治日本 (講談社学術文庫)
コメント
トラックバック
このエントリのトラックバックURL: http://mcbooks.asablo.jp/blog/2013/07/13/6900029/tb
※なお、送られたトラックバックはブログの管理者が確認するまで公開されません。
コメントをどうぞ
※メールアドレスとURLの入力は必須ではありません。 入力されたメールアドレスは記事に反映されず、ブログの管理者のみが参照できます。
※なお、送られたコメントはブログの管理者が確認するまで公開されません。