ネイビーシールズ:特殊作戦に捧げた人生 (単行本) ― 2022/10/05 05:42
本書は、米海軍特殊部隊SEALの叩き上げで提督にまで上り詰め、果てはホワイトハウスで湾岸戦争など重要なミッションに携わるに至った、エリート軍人による回顧録だ。
まずは幼い頃の武勇伝といった自身の生い立ちから始まり、訓練の過酷さや、特殊任務の内容と変遷(昇進)、組織の精神や構造、それらが有機的に関わって、政治の場面でどう機能しているのかまで、広範に書かれている。
エリート軍人の手記らしく、まるで戦場での報告の如く、正確に、漏れなく、最小限の言葉で伝えるスタイルがベースだ。しかし、読み物故の配慮もされていて、ストーリーに気を使い、ユーモアたっぷりに、不要に緊迫感を高めないよう、配慮されている。(これがまたカッコイイ。)
フィジカルもメンタルも、何度も潰されかかっている。そんな過酷な任務の連続なのに、爽やかに、時にクスッと笑いながら、読めてしまう。
今や、少し古いタイプの軍人さんだ。考える前に、判断力と行動力で解決する、マッチョな正義感が芯にある。物事を多面的に捉えたり、複眼で見直すことに時間をかけたり、一点にこだわって深堀するうタイプとは対極にある。
当たり前だ。突如現れる想定外の危険に反射的に対処すべく、鍛え抜かれた人物だ。それは才能であり、適性でもある。
突然の危険に苛まれるような状況は、我々とて常にありうる。そう思えば、著者のドライな緊迫感にも共感は可能だ。そうなると本書は、優劣のような上下や、左右などの区別(差別?)を超えた次元で、物事の真実の一面を伝え始める。
とはいえ、上記のように、著者の視野はあまり広くない。安全な環境に居て、周りを見回す余裕がある、頭の良い読者にとって、ホントか?、そんなに簡単か?、と感じることもありそうだ。だが、そうとは思いつつも、スピード感と迫力に追われつつ、半ば微笑みながら読み進めることになる。
私のような古い人間にとっては、この古き米国軍人魂は、大昔の戦争ドラマなどから馴染みがあり、懐かしくもある。ある程度の年配なら、楽しく読める読者も多かろうと思う。
著者の活躍が、複数の政権を通して続いていることからもわかるように、この感性や価値観、組織と機能は、米国が独自に作り上げた伝統であり、一定の期間、その屋台骨を支える根幹を成していた。しかし、残念ながら、今やそれは確実に劣化の途にあり(劣化しているのは軍人だけでなく政権側もだが)、トランプの登場に見られるように、綻びは明確に、既に外部に露呈するに至っている。
今後は、同種の本に接するのは難しくなろう。
本書が、米国文化の回顧録として読まれかねないのは、残念でもある。
その意味でも、貴重な本と言えるかもしれない。
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ネイビーシールズ:特殊作戦に捧げた人生(単行本)– 2021/10/19
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