◆ (単行本) 「中国」という捏造 ― 2023/06/11 05:11
題名に即した内容の本だ。
原題は「中国の発明」だが、中国という概念がどう創造され、流布されて来たかを詳述している。
その国が依拠する公式な歴史や思想を編むという作業は、多かれ少なかれ、どこの国もやるものだが。この国の場合、それがいかに恣意的か、この国自身の文献を主な題材として調べている。調査を詳細に行い、結果を詳述するという、首尾一貫細かい作業を、淡々と行っている。
例えば、
「中国の人は水を飲まない。必ず白湯にして飲む。」
そう聞くと、まるでそれが中国ン千年の歴史で育んだ貴重なノウハウのように聞こえるのだが。実は、毛沢東あたりが、庶民が生水で腹を壊さないように強制した由だと、どこかで読んだが。
大まかには、そういった話だ。
そもそも、「中国ン千年」とはよく言われるセリフだが。「中国」という国は、ここ数十年の歴史しかない。それより前に、あの場所にあった権力体は、今の中国とは縁も所縁もない、全くの別物だった。そもそも、公式に自国を表す名称すらなかったのだ。
「中国の歴史」の類の本を読むと、時の情勢次第で専制の主体が入れ替わるだけの、暴力と混沌の繰り返しのように見える。それは、日本も含めて、どの国もある程度は同じなのだが、無理を承知でそこに一本筋を通そうという試み、例えば、尊い皇族(将軍様でもいい)に一貫して統治されている由緒正しい国ナンデスネエ式の言い募りは、非現実的な試みとして、他国からは白眼視され、自国民は恥に感じる。それが、一般的かつ常識的な認識だと思う。
しかし中国は、これをあらゆる場面で、実に微に入り細を穿って成してきた。
その目指すコンセプトは、第1に、この国が長い間自認してきた、「朝貢国の頂点として世界の中心に君臨する大国」であり、第2に、西欧列強により騙し討ちされ墜とされた国威(アヘン戦争のこと)を、何としてでも挽回する、という「恨み」の感情だ。
そもそも、「中国」という言葉は、「世界の中心にある絶対的な存在」という意味だ。その認識にそぐわないものは全て誤りであり、悪である。この、文字通り自己中心的な思想は、かの地の帝(今は書記長)が受け継ぐべき正当なものだと、中国は本気でそう思っている。現にそれは、今の中国の行動原理となって体現されており、それを目的に据えて、中国は、民族、歴史、言語、領土、あらゆるものを捏造、まあ良く言っても創造してきた。
その一例というか一段階として、本書では、「国家主権」という言葉について、一章を割いて説明している。中国には、主権という考え方はもともとなかった。外国からもたらされた概念であり、しかも翻訳によるズレという曖昧な部分を我田引水した形で、都合よく構成されたものに成り上がっている。今の中国が言う「国家主権」は、「中国は世界の中心であるという事実、かつ、それを他国に強制してよいという免罪符」という意味になっていると。
中国が言う国際秩序とはそういう意味だし、一路一帯や、最近言い出している人類運命共同体というのは、そこ(中国を中心とした絶対的な世界秩序)へ至る経済的、概念的な道筋という意味を持つ。
我々は、そういった一極的・絶対的な自意識よりも、平等や人権、自由といった概念を貴ぶ側に属している。だが、中国にとって、人権や自由といった概念は他人事だし、押し付けられた異質なものであり、ぶっちゃけ、余計なお世話だ。だから、決して認めない。
彼らの考えは、我々とは違う。それどころか、相容れない。
彼らが操る言葉は、我々とは全く別の意味を持つ。
「どうりで話が通じないわけだ。」 そういう場面は頻発する。
中国とそれ以外との会話というのは、得てして同じ相を持つのだが、特に日本は、留意が必要だと思う。
歴史的に見て、中国(正確には、その当時の大陸の統治体)は、長い間、日本の先生だった。文字、宗教、哲学、儀礼、いろんなものを中国から輸入し、尊び、変容して、熟(こな)してきた。そのせいか、日本には、中国の言うことを頭から真に受けてかかる人たちが、為政者レベルにさえ一定数居るし、一般庶民に至るまで、ある程度、その影響下にある。上の中国ン千年の類は、そのいい例だ。
対して中国はといえば、かつて自分が負けた(←アヘン戦争のこと)西欧列強の側に与し、中国自身は失敗した西洋化・近代化に易々と成功し、西欧列強と同じ理屈でもって、力で地域を席巻するに至った成功(失敗?)体験を持つ小国・日本を、快く思っていない。
この非対称性は明らかで、現に中国は、そこに(も)付け入ろうと策を弄し続けている。これは、我々日本にとって、特に注意を要する事項として喚起されるべきと思う。
余談だが、中国が西欧に対して持つ「恨み」の感情は、近隣の半島が日本に頻繁にぶつけてくるものと、よく似ている。どちらかが真似たのか、相乗効果なのか、実態の程は知らないのだが。
ただ、「恨」のようなダークなフォースで動く人は、自国の格のみならず、周囲の雰囲気をも堕として行く。それに巻き込まれず、誇りをもって、現実的に振る舞う。そういう大人の賢さが必要、かつ試されてもいるとも思うのだが。どうだろうか。
しかし現状、日本の趨勢を見ていると、かえってゲマインシャフト方向に退行しているように、個人的には感じていて。やはり残念だ。
Amazonはこちら
「中国」という捏造: 歴史・民族・領土・領海はいかにして創り上げられたか 単行本 – 2023/3/20
コメント
トラックバック
このエントリのトラックバックURL: http://mcbooks.asablo.jp/blog/2023/06/11/9593564/tb
※なお、送られたトラックバックはブログの管理者が確認するまで公開されません。
コメントをどうぞ
※メールアドレスとURLの入力は必須ではありません。 入力されたメールアドレスは記事に反映されず、ブログの管理者のみが参照できます。
※なお、送られたコメントはブログの管理者が確認するまで公開されません。