'90sのバイクの本(2) モータサイクル(ヤマハ発動機 編集委員会)2015/07/12 12:29

1991年5月刊 定価¥2913(税別)

この本のことは、刊行の当時から知っていた。

ヤマハが、バイクに関して一冊にまとめて出すというので、どんなお話をご開陳してくれるのかとすごく期待して、発刊の当時に、都内の大型書店まで探しに行ったのだ。(当時は、こんなマイナーな本をいち早く確実に手に入れるには、実際に自ら足を運ぶしか手段がなかった。)

何件か本屋を回ってやっと見つけた本書を斜め読みし、ひどく基礎的な内容に舌打ち一発、そのまま買わずに帰ってきた記憶がある。本当に、一般的なこと、知っていることしか書いてなかったのだ。

ちょっと懐かしさついでに、今回あらためて、図書館から借り出して見たわけだが。落ち着いて見直すと、そんなに悪い本じゃない。どころか、かなり真面目にまとめられた本だった。

本書の副題は、「初心者のための基礎と実際」。
この「初心者」だが、バイク乗りの初心者のことではなく、バイク設計の初心者のことのようだ。

つまり本書は、バイクを作る側に携わることになった人に向けて、工学的な所を含めた基礎的な事項を広く浅く提供し、仕事を進める上での基礎知識をあまねく網羅してもらう、とそんなスタンスでまとめられたように見える。

理科系・工学系の学校を卒業後、バイクメーカーに就職して、社内教育で最初に使う教科書、といった趣だ。社内の知識を一冊にまとめるために、社内の設計、開発、研究、実験、企画といった部署から広範囲に人が出て、情報を出し合った。執筆陣を見ると、そんな経緯のようにも見える。

バイクの種類、機械的な構造の詳細、工学的な考え方の要点、数値化(測定)方法、算出に用いる数式と、それが並ぶスペックの種類と意味。そして、それらの歴史的な推移。昔、カタログの一番最後に乗っていた、性能曲線の読み方とか、そんな所まで網羅されている。本書を把握すれば、仕事上の指示書や仕様書なんかも読めるようになる、とそんな感じだ。

全体として、もっぱら網羅する「範囲」の方を重視していて、掘り下げる「深度」は大した事がない。(ヤマハが持つノウハウは一端すら開示しない、という意思の表れかも知れない。) 個々の記述の詳細度は、ちょっとしたマニアなら、簡単に凌駕する程度だ。

そういう本書だから、当時の私の読み方は間違っていた。本書の良さは、情報の網羅度にあるので、知っている所を見つけて文句を言うのではなくて、知らないところを見つけて感心する読み方をするべきだ。そうすれば、バイクの設計製造に関係ない、一般のバイク好きにも役に立つ情報が少なくない。

いい例が、用語だ。操縦性と安定性の違い、シミーとウォブルの差、減速比の定義。こういった用語は、普段は分かったつもりで、厳密な意味はさほど意識せずに使っていて、実は誤解していたりすることがよくあるものだ。その本当の意味を逐一、確かめられるというのは、ネット全盛の昨今でも難しいので、なかなか稀有な情報源と言える。

図が多いのも特徴だ。エンジンの透視図や、特定の構造を説明する図、パーツリストのような分解図、回路図(配電図)、ブロック図。エンジンの形式を示すための図の中には、ヤマハの社内はもちろん、ホンダやBMWのものまである。(権利関係にうるさくなった昨今では、出せない類の本かもしれない。)

ちょっとした細部について、実際に図示しながら、これがこう動くんですよ、という説明がつく。レストアでばらした部品の機能が分からずに、アタマに「?」を飛ばした経験がある向きには、優良な示唆をくれるかもしれない。

こういうまとまり方をしたバイクの本というのは珍しい。工学書として読めるという意味では、ずいぶん前に取り上げた ガエタノ・コッコちゃん と似ているが、これを読んだからって、何かができたり作れたりするわけではない、という点では同じなものの、守備範囲がより広いという点では、本書の方が優れている。

しかし、定価\3000は、ちょっと高い。
大学で買わされる教授が書いた教科書って、妙に高いものなのだが。それに類似かも知れない。

古本が安ければ一冊仕入れとくのもアリかなとは思うのだが。今、Amazonを見た限り、あまりお値打ちな出品は無いようだ。

また、情報としては古いので。(25年前の最新情報。)
どうせなら、もっと新しい技術書、工学書を当たった方がいいようにも思った。


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モータサイクル―初心者のための基礎と実際

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