バイク読書中 「Vespa style in motion」 #052012/09/16 06:32

Vespa: Style in Motion
& 今回は、 Giorgio Nada の伊バイク本、総ざらえ・・。

#####

Vespaは、その始祖であるMP6の時から、構造は独特の塊だった。
当時、何ゆえ、このような形を想起しえたか。

D'Ascanioがそれを作った1945年に立ち戻って、その前後を、少し視界を広く取って、コンペ達を見回してみよう。

前々回だったか、「この頃のメーカーは何を造ってもよかった」と書いたが、ホントにそんな感じで、各メーカーとも、いろいろと試行錯誤をしている。形、構造、操作法なんかも、独自なものがいっぱいあった。百花繚乱…というのはホメ過ぎで、要するに、みんなバランバラで、とめどなかった。

このVespaの本には、FIATが作ったという、スクーターのプロトタイプが載っている。
1938年、2st 98cc、ミッションは二速。
股間にニョッキリのシフトレバーは、クルマのイメージだったかもしれないが。不便そうだ。(後のハーレーのキン●マチェンジみたい。)

その他、手持ちの資料で見かけたものを、時系列に並べてみる。

Moto Guzzi Motoleggera 65 (1946年)
(ISBN 88-7911-039-X)

写真がヘタクソで、前輪がゆがんでますが。
カテゴリで言うと、スクーター(キックボードにエンジン)ではなくて、モーターサイクル(自転車にエンジン)かモペット(原付)の方だが。後に、カバーボディのZigolo(1953年)も出てくる。
資料には、1945年中頃から量産試作を開始とあるから、思いっきり、MP6の同期である。
こうやって見ると、やっぱり、スクーターよりモペッドの方が、安く作れそうに見える。当時の実売価格を調べたわけではないので、何とも言えないが。(実売価格が出ている資料って、意外とないものなのだ。誰か知ってたら教えて欲しい。)

MV Agusta 125 B/C/CSL (1949年)
(ISBN 88-7911-180-9)

今やMVといえば、チョー高級の大型四気筒車のイメージだから、信じられないかもしれないのだが。MVも、この時期に小排気量車から始めていて、スクーターも作っている。1949年に、スチールモノコックを試作して、Milano Trade Fair に出品している。実際に市販したのは、オープンモノコックや、コンベンショナルなチューブラーフレームになったようだが。車体関係は悩んだ跡があるものの、駆動は、普通のチェーンドライブだったようだ。

(ISBN 88-7911-180-9)

Ducati がCuccioloを始めたのが1946年、Lambrettaの生産は1947年から。
スクーター、モペッド、バタバタ…と、くんずほぐれつの様相。イタリアでも、この40年代後半に、小型二輪事業への参入が相次いだのだ。

50年代も、この勢いのまま。
新型も出るし、新規参入も続く。

MV Agusta 125 CGT (1950年)
(ISBN 88-7911-180-9)

モーターサイクルの構造を、使いまわそうとしたようにも。
Lambrettaにも、こんなのがありましたね。
価格は175k Lireだったと。

(ISBN 88-7911-180-9)

Moto Guzzi Galletto (1950年)
(ISBN 88-7911-039-X)

イタリア郵政局・御用達のアレです。
大径ホイールのスクーターの、元祖だろうか。
実はこれ、あの伝統の水平シングルの構造を大きく受け継ぐ、という器用者。
変った場所に、スペアタイアがあるが。転んだときのバンパー代わりになったとか、ならなかったとか。

(ISBN 88-7911-039-X)

なんだか、よくできた軽量の旅バイクに見えてしょうがないんだが…。
(Suzukiも、MP5じゃなくて、こっちを真似ればよかったのに。SW-1。)

他にも、Bianchi も1955年頃からモペットを作っていたし、
1958年の写真。(ISBN 88-7911-054-3)

Garelli (ジレラじゃなくてガレリね)も、遅まきながら参入していた。
M1 (1958年)
(ISBN 88-7911-203-1)

Capri (1959年)
ちょっとベスパ似?、ランブレッタ?。
(ISBN 88-7911-203-1)

いやーん ♥
(ISBN 88-7911-203-1)

こんな立派なのも。
(ISBN 88-7911-203-1)

ラビットの資料 にもあった Ducati のスクーター Cruser は、1951年の作。世界初の4stのスクーターで、セル付き、オートマの豪華仕様だったが、それがたたって重すぎて、まるで売れずに頓挫した、とのこと。(Ducati 版ジュノオ…?。)

Rumi もあります。
Scoiattolo (1951年)
(ISBN 88-7911-364-X)
このあたりはオサレだし、意外と今でも行けそうだが。

これはちょっと、宇宙ちっく?。(笑)
Formichino (1954年)
(ISBN 88-7911-364-X)
ステップスルー(ニーグリップなし)で、ハンドルの根元あたりが重いという。乗りにくそう…。

他にも、ドイツの巨大なヤツなんかもあるが。資料がないので省略。

むりくりまとめると、スクーターの市場が立ち上がった50年代に、みんなして参入を試みていて。それなりに、独自性を出そうという意図や努力は見て取れるのだが。今、まるで残っていない所を見ると、みんなしてスッ転んだ時期、とも言えるかもしれない。
ちなみに、FIAT 500 の発売は、1957年である。

ことスクーターでは、やっぱり、Vespaには、かなわなかったようだ。


バイク読書中 「Vespa style in motion」 #062012/09/23 10:15

Vespa: Style in Motion

” 汝、何をもてVespaとなりしか ”


前回、時期的、大きさ的にVespaのライバルと目される機種を並べてみたが。Vespaに似ているものがほとんどないことに、改めて気付かされる。

Vespaは、フルカバードのモノコックボディだ。コンペは大概、チューブラーに、プレスしたプレートを外付けだった。


モノコックの一部として、一枚板をゆるやかに曲げて、レッグシールドから、ステップボードにつなげる構造を持つ。乗り手の下半身は、走行風や、前輪が跳ね上げる泥からカバーされる。幅も広めで、足もとは広々だ。(転んだときの人間のダメージも小さい?。)


ボディのパネルの分割は、メンテナンス性も考慮しているし、ボディワークは、当時流行の「流線型」を取り入れている。

イメージ元としてはこの辺と。

エンジンをミッションと一体に作って後輪に直付けして、ダイレクトにドライブする。チェーンがないので油が飛ばないし、騒音や熱の発生源であるエンジンを、人間から離して置ける。(快適設計)

エンジンが後ろに行ったので、股ぐらには何もない。ボディはえぐって、ステップスルー構造にできる。クルマと同じでイスのように座れてラクチンだ。足を揃えて乗れるので、スカートの女性もOKとなる。

操作系のあらかたは手元にあって、ハンドルから手を離さずに乗れる。当時の路面状況(砂利または石畳)では、これはかなり有り難かったろう。

ホイルは前後とも片持ち式で、脱着が楽だ。(クルマと同じ要領。)当時のタイヤの質では、パンクの頻度も低くはなかったろう。

あと、これは設計者が狙ったかどうかは怪しいのだが、前輪荷重が少ないこと。エンジンも人間も、リアタイヤの真上に乗っかる構造なので、前が異常に軽い。これがもたらす副次効果は、いずれ詳しく述べたいと思う。

そして、美は細部に「も」宿っている。

Vespaはこの後も、この生まれながらの特徴を、ほぼそのまま、継ぎ続ける。
今でも一目で「Vespaだ」と分るのは、これらを兼ね備えた機体が、前にも後にも無かったからだ。

そのブランドをクラックできる模倣が出なかったのは、パテント戦略や、技術的な難易度など、幾つか要因を追うことができる。(後に詳述する。)

しかし、私が興味をそそられるのは、Vespaの「前に」これが無かったことだ。

D'Aascanioは、如何にしてVespaを思いつきしか。

よくあるのが、これは飛行機屋の思いつきですよ、という解説だ。
(D'Ascanioが航空技術者だった由。)

飛行機の設計は、目的に応じて、機体の構成を考えて、それに必要十分な最小限の構成を、具現化することを考える。
例えば、爆撃機、戦闘機、旅客機などの目的が初めにあって、それに応じた構造を、要求される飛行距離や搭載量などの仕様から、機体の形や寸、馬力(エンジンの機数)などを割り出しつつ、現実に作り上げていく。
軽くなければ飛ばないが、もたずに落ちたんじゃ意味がない。その境目を、いかに美しく狙うかが、デザイナーの腕なのだ。

そういう思考に慣れた技術者が、「必要最低限の移動の道具」として、「一般に供する二輪の乗り物」を考えた結果の、「合理的な構造」。
確かに、そう見えなくもない。

しかし、違っている。

大体、一見して分るが、この作りは、飛行機ではなく、クルマに近い。
(モノコックの四輪は、1923年のLanciaに先例があり、この当時も既知だったはず。)

もうひとつ。

D'Ascanioは、飛行機の人というのとは、ちょっと違うようなのである。